高所得国で群を抜く繁栄と革新性
意外なことではないが、米国経済はほかの大きな高所得国よりもはるかに高い革新性も維持している。
それについては、主要企業の顔ぶれを見るだけで分かる。
マリオ・ドラギ氏が欧州連合(EU)の競争力について先日まとめた報告書で指摘している通り、米国企業は時価総額で欧州企業をはるかに上回るだけでなく、デジタル・エコノミーの分野への集中度もはるかに高い。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のアンドリュー・マカフィー氏は「米国には、ゼロから立ち上げられた若くて価値の高い企業が数多く存在し、その内訳も多彩である。EUはそうではない。米国で100億ドル以上の価値を持つ『成り上がり』企業の価値を合計するとほぼ30兆ドルに達する。これはEUのそれの70倍を超える値だ」と力説している。
つまり米国は経済大国であり、そうであるがゆえに金融収支が常に大幅な赤字になっている。
ドナルド・トランプ氏は異議を唱えているが、この赤字は言わば信任投票で圧倒的な支持を得ていることと同じだ。
殺人率や受刑率に見る野蛮さ
それほどまでに素晴らしい経済大国が「最悪の国」にもなりうるというのは、一体どういうことなのか。
米国の2021年の殺人率は人口10万人当たり6.8件だった。これは同じ年の英国のほぼ6倍で、日本の30倍に相当する。
また、米国では刑務所に収容されている人が直近のデータで180万人以上おり、受刑率(人口10万人当たりの受刑者数)が541人に上る一方で、イングランドとウェールズは139人、ドイツは68人、日本はわずか33人だ。
米国の受刑率は世界で5番目に多く、それより上位の4カ国はエルサルバドル、キューバ、ルワンダ、トルクメニスタンとなっている。
信じがたいことだが、米国の受刑率は中国の4倍を超えている。
米国のコモンウェルス財団によれば、直近の妊産婦死亡率(出産10万例当たり)は米国の白人女性で19、英国で5.5、ドイツで3.5、スイスで1.2だ。米国の黒人女性では50に近い。
子供の死亡率も比較的高い。
世界銀行のまとめによれば、2022年の乳幼児(5歳未満)死亡率(出産10万例当たり)は米国で6.3、英国で4.1、ドイツで3.6、日本で2.3となっている。