悔しくて悔しくて、どうにも我慢できなかったんだろう。「もしチャンスがもらえるなら、明日も使ってほしい」と。
二刀流で勝負している大谷だが、それを続けていくためにも登板した翌日は完全休養日と決めている。
それはチームの決め事であり、当然、本人も認識していることだ。それが分かっていながら、ピッチャーとしてやられた分、明日、すぐにでもバッターとしてやり返したい、チームに貢献したい、という気持ちの表れだった。
気持ちは分かるが、それはできない。理由は、チームの約束事だからというだけではない。
今年の前半戦、指名打者としてスタメン出場した際の成績は思いのほか振るわなかった。それはそれで正当に評価しなくてはいけない。
そして、何よりも天下を取らせるために、いま、彼には我慢を経験させられる最後のチャンスだと思っている。大谷翔平だから、出たいときに試合に出られるとは思わせたくない。自分の思った通りにすべてはならないということを伝えておかなければいけない。
いつかこちらが頭を下げて、投げた次の日に「出てくれ」と頼む日がくるかもしれないが、いまはまだその時期じゃないと判断した。
監督にとってもちろん勝ち負けは重要だ。しかし、選手のことを思えばこそ、ときには優先順位を入れ替えてでもしなければならないことはある。
(『監督の財産』収録「4 未徹在」より。執筆は2015年9月)