石炭を目の敵にするだけで本当にいいのか(写真:GreenOak/Shutterstock.com)

 石炭火力発電は、発電量あたりの排出CO2が多いとして、目の敵にされている。政府が2024年末を目途に策定を検討中の第7次エネルギー基本計画においても、2050年CO2ゼロという目標達成のためとして、石炭火力発電の大幅な減少が書き込まれる懸念がある。

 だが、いま日本の置かれている安全保障状況において、石炭火力は極めて重要な役割を果たす。またAI(人工知能)の利用拡大などによる電力需要急増の可能性が示唆されており、これに備えるためにも石炭火力は活躍する。その重要性について安全保障と経済の観点から述べたい。

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

「台湾有事」は日本のエネルギー危機に

「台湾有事」について筆者は以前から書いてきたが、今回もまず不吉なシナリオを描くことから始めよう。なおかかるシナリオが発生し得る背景について、詳しくは2024年6月2日公開の本コラム記事『台湾・日本・米国のエネルギー同盟で、中国による「台湾封鎖」を抑止せよ』を参照されたい。

 2024年11月、大統領選をめぐり米国が大混乱状態にある中、東部戦線でウクライナ軍を壊滅させたロシアはキーウ包囲戦を開始した。中東ではイスラエルがついにヒズボラおよびイランとの直接の戦争状態に入った。

 この世界情勢において、「米国は東アジアにおける問題に介入する余力はない。千載一遇のチャンスが到来した」と判断した中国の習近平・国家主席は、台湾全体を取り囲む無期限の軍事演習を中国人民解放軍に命令した。台湾に近づく船は臨検(官憲による立ち入り検査)を受け、入港までの大渋滞が発生した。

 こうした中、国籍不明の工作員の攻撃により、台湾周辺で3隻のタンカーが撃沈された。米国の識者は中国の放った海中ドローンによる攻撃と見るが、確証は見つからない。台湾へ来航する貨物船は、船籍、船長、船員の何れかが第三国籍である場合がほとんどであるため、ことごとく台湾への入港を拒否するようになった。中国の狙い通り、台湾のエネルギーは2カ月で枯渇状態になり、物資不足・食料不足が蔓延しはじめた。

 台湾での貨物船撃沈事件を受けて、日本政府は中国を非難する声明を発表する。だがその翌日、日本近海でも東京に向かう2隻のタンカーが、国籍不明の工作員の攻撃によって撃沈される。台湾と同様に、貨物船は日本への来港を拒否するようになった。

 また日本国内のエネルギーインフラも、国籍不明の犯行者によるサイバー攻撃およびテロ攻撃を受けて、大きく損傷する。これを中国からの警告と受け取った日本政府は、対中非難を控えるようになり、台湾は中国の国内問題であるとして非介入を宣言。在日米軍が日本基地を利用して台湾に軍事介入することも拒否する声明を発した。

 台湾は対中開戦の是非について米国と極秘裏に協議する。米国は武器弾薬の支援や軍事衛星情報の提供はするが、日本が米軍基地の利用を拒否したことを理由に挙げて、効果的な軍隊の活用ができないとして、直接の軍事介入はしないと回答した。単独では中国には勝てないと判断した台湾は、開戦を断念する。