集客のために体を張るファン

 動員に一人あたり5000円も払うと、何十万もの金を用意する必要がある。招待バイトを呼びかける女性ファンはどんな人なのか。

「だいたい若くて可愛い女性ですね。『来てくださってありがとう』と小さなお菓子を渡してくれることもあります」

 当日、ライブ会場の指定の場所に行くと、Eさんたちを雇ったファンが待っていて、ペイペイや現金で報酬を支払ってくれるのだという。

「ファンの女性は、推しのために水商売や風俗などで、招待バイトの報酬を稼いでいるという噂です。ホストに貢いでいるのと似てますよね」

 だとすれば、そうしたお金が支払われることを、Eさんはどう思っているのか。

「アイドルの認知度を高める方法としては、いいんじゃないですかね。実際に招待バイトからファンになる人もいるみたいですし」

 Eさんの目的はあくまで、社会科見学と小遣い稼ぎだという。

 宗教学者の島田裕巳氏の『「ひいき」の構造』(幻冬舎新書)によれば、「推し活」のような熱狂的ファン活動は日本には昔からあり、江戸の吉原をはじめ、歌舞伎、相撲、宝塚など、ファンたちは「推し」のために惜しみなく金と労力を投じてきた。

 こうしたファンのことは「贔屓(ひいき)」と呼ばれているが、この言葉には金を表す「貝」が4つも含まれている。

 島田氏は、日本に贔屓の文化が存在するのは、上下の序列を重んじる傾向が強いせいだと指摘している。本来ファンには序列などないはずだが、日本のファンは序列を作り、その上位になるために周りよりたくさんのチケットを買おうとするのだという。

 そんなマウンティングに投じられるお金を目当てに、副業おじさんたちも集まってくるのである。

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若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。