民間事業者をどこまで対象にするか

 日本版DBSの創設に関しては、現在もさまざまな議論が続いています。

 児童が被害を受ける性犯罪の多発を受け、2021年には「教員による児童生徒性暴力防止法」が成立しました。同法によって、子どもにわいせつな行為をした教職員を教育現場から排除することが可能になったのです。ところが、わいせつ事件を起こした元教員が塾や放課後児童クラブなどで活動している実態があることから、国会議員や保護者らから「対策が甘いのではないか」との声が上がっていました。

 日本版DBSは対策強化の切り札として期待されていますが、2月末に示された法案の骨子に対しては「学校などの公的機関はともかく、民間をどこまで対象にするのか」などの疑問が出ています。

 子どもと接する職種は学習塾やスポーツクラブなどだけではありません。医師・歯科医師や玩具店、子ども服店、遊園地など多種多様です。地域には、ボランティアで勉強を教えるサークルや子ども食堂などもあります。制度の導入によって現場が混乱し、子ども向けのさまざまなサービスや支援が滞ってしまう恐れもあります。

 刑法や犯罪者更生との関係でも論点は残されています。日本では刑期終了から10年が過ぎれば刑が消滅し、犯罪者は更生したと見なされてきました。そのため、日本版DBSについては「刑が消滅した者からも更生の機会を奪い、社会の安定性を損なう恐れがある」「更生の実情や歴史を無視している」という懸念も出ています。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。