11月3日に劇場公開された「さよならほやマン」。津波に消えた両親を待ちながら、海に囲まれた離島で「ほや」を採っているアキラと、軽度の知的障がいを持つ、船に乗れない弟のシゲル、突然現れたワケありマンガ家の奇妙な共同生活を描いた家族再生の物語だ。
この映画のアキラ役を務めたのは、二人組のバンド、MOROHAのMC(ラッパー)、アフロである。現実の厳しさや未来に対する希望、大切な人への想いを叩きつけるように歌い上げるアフロはなぜ初めての映画出演を決めたのか。アフロに話を聞いた。(聞き手:篠原匡、ジャーナリスト・編集者)
※ネタバレを含みますので、注意してお読みください。
──日清チキンラーメンのCMなど、最近はテレビの地上波でもお姿を拝見する機会が増えていますが、アフロさんが映画の主演というのは少し意外感がありました。どういう経緯で今回の映画に出演されたのでしょうか。
アフロ:すべては、監督を務めた庄司(輝秋)さんからのオファーです。もともと庄司さんはMOROHAを好いていてくれて、脚本が書き上がった時点で声がかかりました。
それまで映画に出たことはありませんから「なんで俺なの?」と思いましたが、脚本を読んで自分にオファーが来た理由が分かりました。
──どういうことでしょうか。
アフロ:俺の故郷は長野県青木村というところです。四方を山に囲まれた、コンビニが一軒しかないようなクソみたいな田舎。高校を出るまで、どうやってここから抜け出すかということばかりを考えていました。「俺の人生はうまくいかないのはこんな田舎にいるからだ」と思っていたから。
アキラも同じに思えたんです。俺が四方を山に囲まれていたように、アキラも四方を海に囲まれている離島で暮らしている。出たいけど出られない。その閉塞感の中でこらえている姿はかつての自分と全く同じだった。
そこから飛び出すために、アキラは帰ってこない父親が島おこしのために作った「ほやマン」の着ぐるみを着てユーチューバーとして世界につながろうとするんだけど、なかなかうまくいかず、自分のこれまでを呪うんです。
俺も東京に飛び出したは飛び出したけど、なかなか思ったようにはいきませんでした。でもある時に、自分の人生が思ったようにいかないのは故郷のせいではなく、自分のせいだということに気づいた。そこから脱却するために手にしたものがラップだったという感覚があって。
あとはセリフ一つひとつに、自分が曲で歌ってきたところと通ずる部分があったのも、オファーを受けようと思った理由です。