巨額の公的資金を受け、事実上の政府管理下にある保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)。同社が幹部73人に対し、100万ドル以上のボーナスを支払い、しかもそのうち11人が支給直後に退社していた。こうした無神経な人々を米メディアは軽蔑をこめて「AIGボーナスベイビー」と呼び、国民は怒り心頭となり、オバマ政権に予想以上の逆風をもたらしている。

巨額賞与のAIG、幹部ら賞与返還に応じる 米紙

巨額ボーナスに怒り心頭
AFPBB News

 オバマ政権への支持率は60%台から50%台へ急降下し、責任者であるガイトナー財務長官の辞任を求める声も多い。だが、オバマ大統領は3月22日放送のCBSテレビ「60ミニッツ」の単独インタビューで「(仮にガイトナー長官が辞意を表明しても)申し訳ないが君の仕事はまだある(と慰留する)」と発言、先手を打つ形で国民に理解を求めた。

 それもそのはず、ガイトナー長官を辞めさせたら、今の財務省にはオバマ大統領が任命した高官が1人もいなくなるのだ。その人員不足は、専門家の間で深刻に懸念されている。先にワシントンから来日した友人の経済コンサルタントも、財務省の窮状を真剣に心配していた。

 財務省が悲鳴を上げている人員不足は、世界中でもワシントンにだけ起こる特殊な問題だ。先進各国を見渡しても、米国のように政権交代と同時に政府高官が3000人規模で入れ替わる例はない。

 2001年、発足当初のブッシュ政権は「回転ドア」によるスタッフ任命が遅れ、それが9.11同時テロへの稚拙な対応につながったと批判を浴びた。オバマ大統領にはこの問題意識が強く、ブッシュ前大統領の協力を得て政権移行下の閣僚級人事の任命は順調に進んだ。ところが、副長官から次官、次官補クラスの人事になると、ペースが急速に落ちてしまった。

 ブルッキングス研究所などで政権移行を長年研究してきたニューヨーク大のポール・ライト教授は2月18日付のニューヨーク・タイムズ紙で、オバマ政権は最初の100メートルは速かったが、政権移行は1万メートル走であり、最近は劇的にスピードが落ちていると指摘した。

悪夢の「身体検査」、収支報告は数百ドル単位

オバマ米大統領、空席の財務省高官を指名 副長官にウォリン氏

部下が来てくれない!ガイトナー長官
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 こうした人事の停滞はすべての省庁で起こっているが、オバマ政権が最優先課題と位置づける金融対策、とりわけ金融機関の救済や不良債権処理という実務を担う財務省での遅れは、極めて深刻な問題だ。現在、同省ではガイトナー長官に次ぐ副長官の席が不在であり、主要な次官、次官補レベルの任命も遅れに遅れている。したがって、ブッシュ前政権の時代からの留任組が日々の業務を支えているのが実情だ。

 これだけ重要な財務省のポストですら、なぜ人事が遅いのか。これも優れてワシントン的な政治問題と言えよう。就任前のガイトナー長官自身、約4万ドルの税金滞納が発覚したため、議会承認は相当難航した。また、民主党の大物ダシュル氏は14万ドル以上の税金の未納が明るみになり、厚生長官就任を断念している。

 この2人は、決して脱税の確信犯ではないだろう。政府の要職に就くため、個人のカネの出し入れを徹底的に調査され、内国歳入庁(IRS=日本の国税庁に相当)が気づかなかった小さな納税漏れが蒸し返されたのだ。政府任用の際の徹底調査、日本の政治俗語風に言えば「身体検査」は年々厳しくなっている。

 今回は議会と世論が金融機関への公的資金投入に懐疑的なため、オバマ政権も政府高官の候補者を徹底的に調べている。もし「第2のダシュル」が出てしまうと、政権全体のイメージが一層悪くなるため、自ずと慎重にならざるを得ない。