自社のアプリを作っても、ほぼ使われることがないのが現実(写真:吉澤菜穂/アフロ)

 最先端のテクノロジーや斬新なビジネス戦略・ビジネスモデルが次々登場するいまの時代。一見、先進的で華やかだけれど、本当にそんな機能や取組が必要なのだろうかと内心疑問に思うことも少なくない。

 なぜ企業は不必要な取り組みに時間と労力とお金を割いてしまうのか。お客様のニーズに応えるために本当にしなければならないことは何なのか。『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(日経BP)を上梓した株式会社WACUL代表取締役、垣内勇威氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

大した特典もないのに「ゴールド会員」で嬉しいか?

──著書の中で、ライフ・タイム・バリュー(LTV)について説明されています。ライフ・タイム・バリューとは何でしょうか。

垣内勇威氏(以下、垣内):ライフ・タイム・バリューとは、そのまま訳すと「顧客生涯価値」ですが、ここには「企業視点」と「顧客視点」の2つがあります。

 企業視点では「1人のお客様からどれだけ売り上げをあげることができるか」という点を中長期で見ていくこと。一方の顧客視点に立ってみると、「1つの企業からどれだけの価値を得続けることができるか」になります。

 私も含め、ビジネスの場面では、企業視点で商品やサービス、売り方を考えてしまいがち。でも、顧客にとって価値のないものを押し付け、生涯価値を上げたつもりになって、顧客から搾り取ろうという発想になると、結果としてうまくいかなくなる。この本ではそれを課題として提起しています。

──顧客の囲い込みで失敗しがちな4つのパターンとして、「会員プログラム」「会員アプリ」「サブスク」「自社メディア」の4つを挙げています。それぞれ、なぜ失敗してしまうのでしょうか。

垣内:「会員プログラム」に関しては、平たく言えば、顧客が望まないものを提供してしまうという問題があります。会員プログラムには「ゴールド会員」や「プレミアム会員」などの格付けがありますが、用意されている特典は、ちょっとしたクーポンやポイントUP程度のもの。そもそもそれほど嬉しいとは思わない。

 お客様がとても気に入っている商品やサービスであれば、ゴールド会員のステータスも喜ばれるかもしれません。

 たとえば、私は歌手のAikoさんのファンですが、Aikoさんのファンクラブのゴールド会員だったら嬉しい。でも、ある程度の高額の買い物をしたからといって、名前も知らない企業から「ゴールド会員になりました」と言われて、はたして嬉しいでしょうか。

 また、「明日からポイントが2倍になります」と言われても、その店にまた来る可能性が高いのでなければ、それほど嬉しいとは言えません。

 ところが、企業は高額を払ってくれた顧客にゴールド会員のようなステータスを付与すると囲い込めるのではないかと考える。これは間違いです。

 次に「会員アプリ」です。