東京中央郵便局の建て替えをめぐってひと騒動あったのは記憶に新しいことと思う。建物の歴史的価値に鑑みて、鳩山邦夫総務大臣が突然建て替えに異議を唱え始めたのである。確かに東京中央郵便局は日本の戦前のモダニズム建築の先駆とされ、重要文化財級の価値を有している。

 東京中央郵便局は1931年に建てられたものなので、歴史といっても80年に満たない。一方、地方には何百年も前の中世の史跡がたくさん埋もれている。そうした史跡を保存して、まちづくりに活用している例は意外と多い。

 史跡保存の目的は何か。もちろん歴史学、考古学、はたまた民俗学的な考証ということもあるが、それに加えて、そこに住む人たちの地域への愛着を深めるということも挙げられる。その意味では、史跡とはまちづくり、人づくりのための文化的資源であると言えるだろう。

まちづくりの核になっている山口の「大内氏館跡」

 例えば私の地元、山口県にも、大内氏館跡(おおうちしやかたあと)という中世の史跡がある。

 大内氏というのは、室町時代に山口に本拠を置き、守護大名から戦国大名となってこの地方を支配した一族だ。大陸や西洋の文化を独自に吸収し根づかせたことでも有名である。

 山口市の総合計画には、まちづくりの基本的な方向として「歴史、文化、豊かな自然を継承し、美しいたたずまいと風格のあるまちをめざします」というスローガンが真っ先に掲げられている。

 山口市文化政策課とNPOでつくるホームページ「大内文化まちづくり」によると、史跡の保全と活用、歴史を語り継ぐ拠点施設の整備と活用、街並み景観の保全、伝統産業の振興、交流を促す街の動線づくりなどが行われているようだ。

 私も大内氏館跡を訪れたことがあるのだが、「大内文化の遺産マップ」に照らして改めて街を眺めてみると、全体が歴史に覆われており、500年前の世界と現在の世界とが実に違和感なく溶け合っているのを感じる。

 この例に限らず、歴史そのものを公園化し、展示施設なども併設して、そこを起点に講座や新たな研究情報の発信を行っているパターンが多いと思う。