(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)
官の世界には「公平・公正」を最優先する規範意識が、民の世界には「結果重視」の感覚があります。ここ最近、この官のルールと民のルールの違いが引き起こしているのではないかと思える事件が目につくように感じています。
一つは、記者たちに対するオフレコのブリーフィングの場で、同性婚について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と発言したことが暴露され更迭された荒井勝喜・前総理大臣秘書官の事件です。
異能の官僚
荒井さんは私にとって経産省時代の先輩にあたり、個人的にも良く知っています。更迭された日もメールでやり取りをしました。
私が知っている荒井さんは、それが指名手配犯とかではない限り、隣に誰が住んでいても気にしないタイプの人です。また荒井さんは経産省のキャリアでは珍しい経歴の持ち主と言われていて、神奈川県の超名門というわけでもない公立高校を卒業後に、一度は就職を考えて内定まで取ったそうなのですが、大学進学を決意し、早稲田大学政経学部に入学。早大卒業後に当時の通産省に入省したという経歴だと言われています。
東大卒が珍しくない霞が関のキャリア官僚の中で、特に荒井さんの世代の私大卒はかなりのマイノリティです。また、東大卒が珍しくないだけに霞が関の世界では、むしろ出身高校が重視される風潮もありますが、灘や開成、学芸大附(教育大附)やラサールなどといった名門高校出身者ごとにグループが形成される中、荒井さんの出身高校はそういう世界とは無縁の学校でした。
つまり、荒井さんは霞が関の中で相当なマイノリティの人で(出身高校も出身大学もマイノリティで、学閥という意味での仲間が少ない)、マイノリティの立場がよくわかっている人なのです。
その一方、性格は非常に気さくで、官僚の中では珍しいくらいネットワークが広い人でもあります。役人の世界は、上から次々に仕事が降ってくる環境です。仕事をすれば給料が増えるわけでもないので、「面倒だし、とても処理しきれない」と逃げに回ってしまう人も多い中で、私が知る荒井さんは基本的に降ってきた仕事は全部受ける人でした。荒井さんの部下になったら大変かも知れませんが、基本的に押し付けるタイプではなく、当の荒井さんが部下以上に働くのです。私も役人時代、夜中の2時、3時まで一人で黙々と仕事をしている荒井さんを何度も目撃しました。