旧市街の古いアパートにある中庭は通り抜けられるようになっています。そうでないと大回りをしなくてはならないので、歩行者にとってはありがたい通り道です。
そんな抜け道を歩いていると、猫が現れます。家の玄関から中庭を見ていた猫は、咳払いのような小さな音を立てました。注目してほしかったのでしょうか。
アパートの歩道で出会った立派な猫とあいさつを交わすと、ぼくの秘密基地を教えてあげると言われた気がしたので、ついて行きました。すると、中庭の中央に設置された、すべり台のついた遊具に飛び乗りました。上等な木製で、とても温かみを感じるものです。
通りかかった杖をついたお年寄りの男性が、その遊具にもたれて一休みしました。「小さな子どものために設置したけれど、いまはこれで遊ぶ年頃の子どもがいなくなってしまった。この猫だけでも、使ってくれてうれしいよ」。話の内容がわかったかのように、猫は大きなあくびをしました。