(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
中国の北京に赴任中の日本企業の幹部から、ずっと以前に現地で聞いたことがある。いっしょに暮らす妻が集合住宅のごみ捨て場にごみを出したら、地元の中国人に怒られたという。なぜごみを分別して出すんだ、と。
日本では当たり前のように分別してごみを出したところ、分別するのは俺の仕事だ、と怒るのだという。彼が分別することによって、それぞれのごみの種類に応じて、それ専門の人物が拾い集めていく。その分業(というより利権)ができていて、勝手に分別するな、というのだ。それで生計を立てている。
「だから、ごみのひとつにもここでは権利があるんですよ」
企業幹部がそうこぼしていた。現在カタールで開催中のサッカーワールドカップで、絶賛されている日本代表サポーターの清掃活動が物議を醸したことで思い出した。
「勝手に掃除すると清掃員の仕事を奪うことに」
以前から試合後にスタンドのごみを集めることで知られる日本のサポーターだが、23日に日本代表がドイツを相手に劇的な勝利をあげたあとも、ごみ拾いを欠かさなかった。その映像を添えて、FIFAワールドカップの日本語公式ツイッターはこう書き込んでいた。
「世界中から称賛される日本人ファン/歴史的な勝利の後もスタジアムを清掃する姿に心からリスペクトです」
米国のスポーツ専門チャンネルESPNも公式ツイッターに写真を添えて、この模様を伝えている。
これについて、前東京都知事の舛添要一氏が、ツイッターにこう書き込んだことが話題をさらった。
「日本のサポーターがスタジアムの清掃をして帰るのを世界が評価しているという報道もあるが、一面的だ。身分制社会などでは、分業が徹底しており、観客が掃除まですると、清掃を業にしている人が失業してしまう。文化や社会構成の違いから来る価値観の相違にも注意したい。日本文明だけが世界ではない」