9月27日、日本武道館で執り行われた安倍晋三元首相の「国葬」で弔辞を述べる岸田文雄首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 日本武道館から680キロメートル離れた地方都市に暮らす私にとって、国葬の9月27日はいつも通りの平日だった。それまでの数日間、東京方面からは「周辺の幼稚園は休園」「登校させずにオンライン授業」「首都高通行止め」と市民生活への影響がさまざま伝えられていたが、広島の私は、なんのイレギュラーもない、なんてことない一日を過ごした。

 いつものように、原爆ドームや原爆慰霊碑、原爆供養塔に手を合わせ、戦争によって未来を奪われた犠牲者の方々に思いを馳せた。秋の彩りを増してきた平和記念公園は、各地からやってきたたくさんの生徒さんたちでにぎわっていた。

スピーチから見えるおぼっちゃま政治家たちのズレっぷり

 2年前の中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬の際、公園内の原爆供養塔近くにある国旗掲揚台で半旗が掲げられたのを取材したことを思い出し、国旗掲揚台を見上げると、国旗そのものが掲揚されていなかった。広島市に聞くと、朝から大雨だったので、国旗掲揚と降納を毎日担当している警備員の判断で掲揚しなかったとのことだった。

 SNSで、ともに12分前後に及んだ岸田文雄首相と菅義偉前首相のスピーチがなにやら話題になっていたので、夜子どもたちが寝た後、全文にじっくり目を通した。岸田首相の、安倍氏礼賛一色の大スピーチを読み進め、「(あなたは)とりわけ女性を励ましました」という部分で、飲んでいた麦茶を噴き出しそうになった。

 手料理を作ってくれた妻を立たせたまま自分だけが着席した食卓の風景を、無邪気にSNSに投稿して話題をさらってしまう、代々政治家の裕福な家庭に生まれたおぼっちゃま政治家・岸田首相。その目には、選択的夫婦別姓制度導入への賛否を問われた党首討論会で、ただ一人凛として手を挙げなかった、同じく代々政治家の裕福な家庭に生まれた同期のおぼっちゃま政治家・安倍氏の姿が、「とりわけ女性を励ました」風に映るんだ、と。