「信長の野望・新生」(コーエーテクモゲームス)パッケージ写真より

(歴史家:乃至政彦)

「信長の野望」最新作発売

 絶対な人気を誇る株式会社コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーションゲーム「信長の野望」16作目となる最新作が、7月21日に発売された。サブタイトルは「新生」である。

 その内容は、これまで以上に最新の歴史研究を意識している。

 もちろん、史実と異なるところもたくさんあるが、今回は上杉謙信に焦点を絞り、その相違点を見てみよう。

史実と研究とゲーム性

 近年の「信長の野望」は、一般に膾炙されている物語色の強い歴史イメージと、史学研究の進展により見えてきた新事実(および新解釈)を交えることで、多くのプレイヤーを楽しませるように配慮されている。

 もちろん「歴史其儘」にして、ゲームの面白さが出せるとは思えない。それぞれバランスの取り方が肝要だろう。作る側はかなり大変だと思う。

 以前から、物語色の強調、史実性の復元、ゲーム的エンタメを融合する意識の高さは見えていたが、特に最近は新しい歴史研究の成果が、一般書籍やインターネット情報により、かなり気軽に触れられるようになったことで、これを無視することは難しくなっている。

 時代考証に力を入れている大河ドラマも、ただ面白いからというだけの理由で、明らかにフィクションである設定を採用することのないよう配慮されている。

戦国武将の名乗り

 さて、信長の野望シリーズにおいて、難しいと思うのは、武将の能力値データだけでなくその名乗りである。

 例えば、本作にも登場する織田家臣「森蘭丸」という人物の名前は、江戸時代になってから呼ばれた名前で、当時は「森乱法師」「森乱」と呼ばれていた。論者の中には「森乱丸」というのが史実の名前であったという人もいるが、実のところ、そのように表記された文献は検出されていない。

 それでも蘭丸は、多くの人にとって、やはり「森蘭丸」がなによりもしっくりくる。ゆえにこれを除外するわけにもいかず、今回もまた「森蘭丸」の表記を選んだのだろう。ただ、蘭丸は幼名であるから、本能寺の変イベントが起きないでいると、死ぬまで元服せずに幼名となってしまうのも少し気の毒である。

 同じ織田家臣(後に上杉家臣)として出てくる「前田慶次」の実名(じつみょう)は不明で、いくつかの有力な説があるものの、これにもしどれかの説を採って実名を定めると、ファンの中には強い違和感が残るだろう。

 慶次というのは「仮名(けみょう)」であり、ゲームの武将のほとんどが「前田利家」や「直江兼続」などと実名で表記されているのだから、一部だけ仮名表記なのはどうにも不一致感がある。さりとて、彼らを「前田又左衛門」や「直江山城守」に表記すると、それはそれで通りが悪い。

 タイトルも「信長の野望」ではなく「三郎の野望」だとか「尾張守の野望」「前右府の野望」みたいなものにしないと不徹底になってしまう。

 それに、武将は父子ともに仮名や官名をそっくりそのまま同じ通称を使っている人物が多い。その辺も考えると、こういう不徹底さは必要なのだと思わされる。