「札幌2030オリンピック・パラリンピック」に込める願い
──そしてミラノの次、2030年には札幌が冬季オリンピック・パラリンピックの招致に名乗りを上げています。本橋さんはプロモーション委員にも就任されましたが、どんな思いから引き受けたのでしょうか。
本橋:私自身スポーツの業界に身を置いていて、自分たちが当たり前だと思っている常識は社会にとっては非常識ということが多々あると感じていました。
例えば、ジェンダーや性別、人種の問題などもそうです。私たちはスポーツをやっていてそんなことを気にしたことはないのですが、世の中は意外に敏感になっている。そうしたことの「すり合わせ」をしていかないと、オリンピックを札幌だけでなく北海道全体、そして全国で盛り上げることが難しい。その部分でお手伝いできるのではないかと考えたからです。
──オリンピックは単純にスポーツ振興だけでなく、環境問題やジェンダー問題など社会課題の解決に向けたアピールを全世界に発信できる場でもありますし、経済効果も大きいですからね。
本橋:そういう問題も世界中のみんなで理解したり共有したりする場所がオリンピックになってきていますよね。
経済的な効果でいうと、オリンピック期間中の短期的な経済効果を考えるのではなく、大会がきっかけとなって、その後に経済が動いてお金が回り出す二次的な経済効果をフォローできるようにしなければ意味がないと思います。
スポーツ界にとってはオリンピックを派手にしたほうがいいのかもしれませんが、一般社会の感覚からすれば「簡素化できるところはどんどん簡素化して」と考えるのは当然だと思いますし、子育てをしている私もそう思います。お金は湧いてくるものではありませんし、本当に開催地がいいリワードがもらえるような大会になればいいなと。
「開催して良かった」とか「いろんな人たちが来てくれて良かった」だけじゃないレガシーをいかに残していけるかが重要で、そういう歴史的な大会が自分の故郷で開催されたんだという誇りが持てる状態まで持っていかなければもったいないと思うんです。
──地元出身でもあるオリンピアンの本橋さんの意見が札幌開催に活かされるといいですね。
本橋:地元開催もそうですし、子育て世代として家族でオリンピックの感動やメッセージがすっと伝わるような方法も考えられたらと思っています。もちろん、出場するトップアスリートだけでなく、次世代の選手が心躍らせるような大会になればいいなと願っていますしね。
コロナ禍でスポーツの見せ方もだいぶ変わってきたので、オリンピックの自国開催をいいチャンスにして、新しいことにどんどんトライしてもいいんじゃないかなと思います。失敗がダメとされる世の中ではなく、失敗してみた結果に気づきがあり、そこからまた這い上がれるような人間らしい雰囲気もオリンピックで出せたら素晴らしい大会になるような気がします。
【本橋 麻里(もとはし・まり)】カーリングチーム「一般社団法人ロコ・ソラーレ」代表理事。12歳の時にカーリングを始める。2006年に「チーム青森」のメンバーとしてトリノ五輪に初出場し、7位となって注目を浴びる。2010年のバンクーバー五輪でも8位となり、2大会連続入賞を果たす。同年8月、出身地の北見市で新チーム「ロコ・ソラーレ」を結成。2016年3月に行われた世界選手権にて銀メダルを獲得するなど、チームとして成長していく。2018年2月の平昌オリンピックでは、日本カーリング史上初の表彰台である銅メダルを獲得し、脚光を浴びた。2018年夏に選手休養を表明し、一般社団法人ロコ・ソラーレを設立。現在は代表理事としてチーム運営、育成チーム「ロコ・ステラ」のコーチなど、チームを支える活動を行っている。また、ロコ・ステラのメンバーで競技者復帰、プレイングマネージャーとしても注目されている。