選手時代に体感したオリンピックの特別な雰囲気

──本橋さんもオリンピアンですが、ご自身の出場経験も含め、改めてオリンピックとはどんな大会だと思いますか?

本橋:やはりオリンピックって特別な雰囲気があります。日本選手団として出場するので、チームメンバーが増えたような一体感が生まれますし。だから期間中は誰がどの競技でメダルを取ったとか、誰がレース途中で棄権してしまったとか、そういうニュースで心が動いたりもするので、感情の起伏が出やすい大会なのかなと思います。その感情を上手にコントロールできた選手、うまくエネルギーに変えられたチームが勝ち残るのかなと。

──メンタルが相当強くないと、プレッシャーに押しつぶされてしまいますね。

本橋:今でも私たちはみんな、メンタルが強いほうではないと思っていますよ(笑い)。逆にそういう観点で自分たちを見ることができている点が強みなのかもしれませんね。オリンピックは自分たちがどれだけ成長したかバロメーターにできる大会でもあるので、そこで成長を感じられたら、より競技が好きになったり、一緒に戦ってくれたスタッフと1年でも長く競技を続けたいというエネルギーになったりします。

──2019年に出された著書(『0から1をつくる』/講談社現代新書)では、カーリングのオリンピック出場について、〈4年に1度だけ盛り上がる化石化したスポーツとして、身動きが取れなくなってしまうという危機感を抱いていた〉と書かれていました。

本橋:やはりオリンピックは“マンモスインターナショナルゲーム”みたいな感覚があるので、終わった後の喪失感は私たちももちろんありますし、観戦している皆さんにもあると思います。その「波」があるのは仕方がないことですが、盛り上がった競技を次のオリンピックに向けていかに滑らかにつなげていけるか、という課題は常に持っています。プロスポーツが多い中で、アマチュアスポーツは特にそうです。

──4年後に向けて盛り上がりをずっと持続させるのはとても難しいことですね。

本橋:無理に続かせようと思うとうまくいかないことも分かったので、「できるだけ人の心を動かす回数を増やす」という作業を続けられる方法だったり仕掛けだったりが必要なんだと思います。

 私自身は何回もオリンピックに出場させていただき、いまはチームの選手たちが戦っている姿を見る立場になっているので、単なるファンではなく冷静にニュースなどを見ながら「オリンピックって何だろう?」と考えられるようになりました。

 東京大会を皮切りに「Back to Basics」ではないですが、基礎に戻ろうよと皆さんが声をあげてくださり、いい気づきをさせてくれたと思います。国籍や人種も関係ないアスリートたちがガチンコ勝負をしにオリンピックに集い、そこには誰もお互いを批判することのない世界がある。もちろん試合中は真剣勝負ですが、みんなが心を通わせ合うので仲はいいですし、あの経験はアスリートにとってメダルとは違う最高のボーナスです。