長野オリンピック金メダリスト 清水 宏保氏

 2030年冬季オリンピック・パラリンピックの札幌招致が進められている。長野オリンピックを含め4大会に出場したオリンピアンの清水宏保さんは、オリンピック・パラリンピックの開催はさまざまな効果をもたらすと語る。その一つが、国民のスポーツへの関心の高まりとそれに伴う健康寿命の延伸だ。さらに、大会開催をきっかけに、アスリートをはじめ、さまざまな関係者による、スポーツ・健康に関する人的ネットワークが地元に構築されることも期待できるという。

 

スケートを始めたきっかけは喘息を患ったことから

―― 2月20日に、中国の北京で開催されていた冬季オリンピックが閉会しました。清水さんも現地に行かれ、リポートや解説もされましたが、日本選手の活躍ぶりなどをどのようにご覧になっていましたか。

清水氏:北京オリンピックで日本選手団は冬季大会史上最多の18個のメダルを獲得しました。また、スピードスケートでも、金メダル1つ、銀メダル3つ、銅メダル1つを獲得しました。このほか、男子ハーフパイプでの平野歩夢選手の見事な金メダル、カーリング女子の初めての決勝進出と銀メダル獲得などにも大いに感動しました。一方で、ジャンプ競技において、スーツの規定違反で日本人選手が失格となるなど、混乱もありました。ただ、どの大会でも必ず想定外のことが起きるものです。課題があるとすれば次の大会以降、改善してくれるのではないかと期待しています。

 競技以外で意外だったのが、大会がとてもしっかりと運営されていることでした。トイレも含め建物はきれいで快適でした。また、バリアフリーも行き届いていました。何より感心したのは人の接し方、ホスピタリティです。ボランティアの皆さんも、明るく親切で。10年前の中国とずいぶん違っていたので驚きました。

―― 清水さんは、1998年に開かれた長野オリンピックスピードスケート男子500メートルで金メダル、1000メートルで銅メダルを獲得されました。清水さんがスケートを始めたきっかけはどこにあったのでしょうか。

清水氏:私は3歳からスケートを始めたのですが、その頃から気管支喘息を患っていました。喘息を少しでもコントロールしようという思いで始めたのがスケートでした。スケート以外にも、他の子どもたちと同様にサッカーやバスケットボールなどもやっていました。その中で一番楽しかったのがスケートでした。何よりスピードが出るのが面白かったですね。

アスリートのセカンドキャリアとして、リハビリ施設などを運営

―― 2002年のソルトレークシティオリンピックにも出場し、500メートルで銀メダルを獲得されました。2010年に引退され、現在はスポーツジム、デイサービス、訪問看護施設などを運営する企業を経営されています。

清水氏:アスリートが引退すると、すぐにセカンドキャリアをどうすべきかという課題に直面します。指導者やテレビ解説者などになれる人はほんの一握りです。さらに、なったとしても定期的に仕事があるわけではありません。

 私も自分自身のセカンドキャリアを模索する中で、アスリートとしての経験を生かせるのはどんな分野だろうと考えました。その中で、リハビリテーション(リハビリ)ならできるのではないかと思ったのです。アスリートにけがはつきものですし、その後のリハビリもしっかりと行います。知識を身に付けるために、日本大学大学院に進み、医療経営学修士を取得しました。その後、リハビリ型通所介護施設、訪問看護ステーション、フィットネススタジオ、サービス付き高齢者向け住宅などの事業を立ち上げました。ちなみに、現在も弘前大学大学院社会医学講座博士課程に在学し、企業経営の傍ら研究にも取り組んでいます。

―― 高齢者の方が寝たきりになるケースが増えています。清水さんの会社ではこの課題にどのように取り組んでいるのですか。

清水氏:リハビリ施設にフィットネススタジオや訪問介護などを組み合わせることで、運動をする機会をできるだけ提供し、利用者さんの機能改善や健康支援につなげていきたいと考えています。ある利用者さんは、90歳を超えてから脚を骨折され、歩けなくなっていました。大げさでなく生きる希望も失ったとのことでした。そこで当社に通っていただき、運動プログラムを実施したところ、自分一人で歩けるようになりました。お元気になって、趣味で絵を描き、画集を出版し、個展を開かれるまでになられました。お会いするたびに、私自身が元気をもらっています。

オリンピック・パラリンピックの招致により、市民の健康増進や健康寿命延伸が期待できる

―― オリンピック・パラリンピックの招致により、スポーツ人気が高まると、リハビリや医療技術の発展も期待できると思われます。清水さんはどのようにお考えでしょうか。

清水氏:さまざまな効果が期待できます。まずは競技そのものの認知や関心が高まることです。コロナ禍により東京2020大会と北京2022大会はわずか半年の間に続いて行われることになりました。それによって、まだ夏季大会の記憶も新しいと思います。日本チームや日本人がメダルを獲得した競技は、自分もやってみようかと思う人が増えます。例えば東京パラリンピックで日本勢が活躍したボッチャは今、競技人口が急速に増えているそうです。当社の施設でも、高齢者の方を含め、多くの方が楽しんでいます。競技人口が増えることで、関連施設や従事者も増え、リハビリや医療技術などに関わる人材の層も厚くなります。

―― 清水さんは北海道帯広市のご出身ですが、残念ながら、札幌市の健康寿命は、他の政令指定都市に比べて低い傾向があります。冬季オリンピック・パラリンピックを招致することで健康寿命延伸にどう貢献するでしょうか。

※令和3年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)
「健康日本21(第二次)の総合的評価と次期健康づくり運動に向けた研究」分担研究報告書
「健康寿命の算定・評価と延伸可能性の予測に関する研究」より

清水氏:政令指定都市の中で、札幌市はもっとも北にあります。特に今年は雪も多くなっていますが、冬場は外に出て歩く機会が減るのも原因かもしれないですね。

 ただ、札幌市周辺には少し足を延ばすだけで、ウインタースポーツを楽しむことができる施設がたくさんあります。冬季オリンピックの競技を知ることで、スキーやスケートに興味を持つお子さんも多いでしょう。私が最近感じるのは、お子さんだけでなく、「久しぶりにスキー場に行った」というようなお父さんお母さん世代の方、さらにおじいちゃんおばあちゃん世代の方が増えていることです。この年代の方々はガンガン滑るというわけではなくて、リフトで上がってカフェで休んだり景色を楽しんだりといったように、思い思いに楽しんでいます。それでもかなりの運動量になると思います。

 大切なのはウォーキングなどでもいいので、日ごろから体を動かす習慣を身に付けることです。オリンピック・パラリンピックの招致はその大きなきっかけになると思います。

―― 冬季オリンピック・パラリンピックが札幌で開催されると、パラリンピックが初めて札幌にやってくることになります。ダイバーシティへの関心も高まると思われます。このほか、冬季オリンピック・パラリンピックの札幌招致により、社会にどのような変化が起きると期待されますか。

清水氏:パラスポーツに関しては、見る人だけでなく、する人、すなわち競技人口も増えてほしいですね。

 障がいのある若い人たちの中には、自分にはスポーツは無理だと思っている人も多いと思います。しかし、実際にやってみると必ず「できる、楽しい」と感じてもらえるはずです。中には競技歴数年で日本代表になった選手もいます。逆に言えば、どの選手にもチャンスがあります。また、日本の若い人の中にもポテンシャルを持つ人がたくさんいると感じています。今から始めても8年後の2030年の大会に十分に間に合います。ぜひ参加してほしいと思います。

 このほか、冬季オリンピック・パラリンピックの札幌招致に私が期待しているのが、引退したアスリートなどを含む、さまざまな人材が集まる、スポーツ・健康のネットワークを作ることです。北海道出身のアスリートは多いですが、ほとんど、北海道以外の場所で活動しています。それは活動の場がないからです。冬季オリンピック・パラリンピックの札幌招致をきっかけに、市民の健康増進に貢献していくようなエコシステムができるといいですね。そのような取り組みを通じて、「健康都市・札幌」として日本の健康寿命延伸をリードする存在になってほしいと願っています。

 長引くコロナ禍で日常的な運動機会さえ失われてしまった人は多いだろうが、昨年の東京2020大会、そして今年の北京2022大会での日本人選手の活躍もあり、国民の健康増進意欲は高まっている。オリンピック・パラリンピックは単なるスポーツ振興の目的だけでなく、スポーツを通じて様々な人が集い語り合うことで“心の健康”も育まれる。健康寿命の延伸が重要な社会課題となっている中、トップアスリートの経験を活かした清水さんの「スポーツと健康」に対する様々な取り組みは、2030年冬季オリンピック・パラリンピックの札幌招致でも必ずや大きなパワーとなるはずだ。

●お問い合わせ先
日本オリンピック委員会(JOC)
〒160-0013東京都新宿区霞ヶ丘町4番2号
TEL:03-6910-5950
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札幌市スポーツ局招致推進部
〒060-0002 札幌市中央区北2条西1丁目1-7  ORE札幌ビル9階
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