インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 インドネシアにおいて、イスラム組織が「国家転覆計画」を練っていたことが明らかになり、国民に大きな衝撃を与えている。

 インドネシアの国家警察は、4月1日までに、2024年に予定している大統領選挙の前に武力で現政府を倒し、イスラム教のカリフによる統治を実現するとの計画を進めていたとしてあるイスラム組織の関係者多数を逮捕した。同時に「国家転覆計画書」なる文書を押収したことを明らかにした。

 その「あるイスラム教組織」が、かつては大きな影響力を持ちながらも、その後長らく衰退していたと思われていた組織だけに、事件の背景にどのような動きがあったのか、注目されているのである。

 インドネシアは世界第4位の約2億7000万人の人口のうち約88%をイスラム教徒が占めるという、世界最多のイスラム人口を擁する国。ただしイスラム教を国教とする「イスラム国家」ではなく、キリスト教や仏教、ヒンズー教、儒教も認める国家として建国された。それゆえに「多様性の中の統一」「寛容」が“国是”であり、異教徒間の融和が政治経済社会文化の各分野で常に求められている。

 そうした中で、国民の大多数を占めるイスラム教徒の組織による「クーデター計画」が明らかになっただけに、社会に衝撃が走った。一方で「警察によるでっちあげ」との見方も出るなど、動揺はまだ収まっていない。

古参の過激組織

 事態が明るみに出たきっかけは、今年3月、国家警察の対テロ特殊部隊「デンスス88」が、スマトラ島南スマトラ州ダルマスラヤで12人、タナ・ダタールで4人をテロ関連法案違反容疑で逮捕したことだった。16人はイスラム過激派組織「インドネシア・イスラム国(NII)」のメンバーで、捜査の過程で国家転覆を計画しているという内部文書を押収したという。

 NIIはアラビア語で“イスラムの大地”を意味する「ダルル・イスラム」(DI)という名で知られるイスラム国家樹立を目指す組織がつくった“国家”の名称である。「ダルル・イスラム」は1949年に西ャワのタシクマラヤで創立され、「カリフ」というイスラム教の政治・宗教の権威を持つ指導者による「イスラム国」の創設を求める組織だ。当初から各地で政府への反乱を繰り返し、政権打倒のためスカルノ初代大統領の暗殺まで試みたこともある。