炭酸飲料から理解する「真空爆弾」

「真空爆弾」こと「サーモバリック爆弾」の原点は、ナチスドイツの「炭塵爆弾」開発にあります。

 20世紀前半、世界の基幹動力源はいまだ石炭、アウシュヴィッツにユダヤ人犠牲者たちを運んだ多くの列車も、「D51」のような蒸気機関車でありました。

 石炭を掘り出す「炭鉱」で、極めて深刻な問題になっていたのが「炭塵爆発」(https://kotobank.jp/word/%E7%82%AD%E5%A1%B5%E7%88%86%E7%99%BA-95145)です。

 石炭を掘削すれば、粉が舞い散ります。空気中に分散した「炭の粉」に、電気系統のちょっとした火花などで点火することで「炭塵爆発」は発生します。

 戦後の日本でも、三井三池炭鉱爆発事故(1963)では458人の死者、839人の一酸化炭素中毒者が出、記録に残る限り最大最悪の労災事故として知られています。

 ナチスは、この「炭塵爆発」を兵器に利用できないかと考えました。そこで活用を考えたのが、多くの方が「炭酸飲料」に関連して経験のある物理化学現象でした。

 コーラなど、炭酸飲料の缶を開けたとき、中身が噴出して大変だった経験をお持ちの方は少なくないと思います。

 シャンパンなど、下手すると栓を開けた拍子に大半の液体が吹きこぼれてしまうこともある。

 こうした際、良く冷やした炭酸飲料より、常温で保存してあったものの方が、吹きこぼれの度合いがひどいのも、経験的にご存じの方が多いのではないでしょうか。

 ナチスの軍事技術者は、これと同様の原理を使って、瞬間的に「石炭の粉」を広い空間にばら撒くことを考えました。

 炭鉱では、採掘に際して発生する炭の粉が、時間をかけて坑道中に蔓延し、あちらもこちらもススだらけになった状態で、突然点火すると炭塵爆発が起きてしまう。

 ナチスが考えたのは、この「いちめん炭の粉だらけ」の状態を作り出すのに、炭酸飲料が吹きこぼれるのと同様の原理を用いることでした。