福島県須賀川市。東洋一のボタン園が市民8万人の自慢だが、それ以外は「普通の」農村の風景が広がる。しかしそこには、ゆっくりだが、着実に売り上げ拡大中の農産物直売所がある。その名は「はたけんぼ」。地元農家が農作物を持ち寄り、それぞれ独自に価格を設け、委託販売するJAのファーマーズマーケットだ。オープンから6年足らずだが、2008年度の売り上げは約12億円を見込んでいる。県庁所在地でも中核市でもない、「普通の」町の一店舗がなぜ顧客の心をつかんだのか。「はたけんぼ」成功の秘訣を探ってみた。
2003年6月。前身の小さな直売所がファーマーズマーケットに発展する形で、「はたけんぼ」がオープン。農産物の委託販売に加え、生産者が独自加工した商品コーナーや、従業員が地元の大豆で作る豆腐工房を設け、「総合」直売所に生まれ変わった。
しかし、肝心の品数が揃わず、客足が伸びる気配がない。2003年度の販売額は目標の5億円に届かず、期待が外れた。佐藤貞和・統括マネジャーは「当初はキュウリやトマトなど、作りやすい農作物に品数が偏り、客を引き付けるような売り場構成を組めなかった」と当時を振り返る。供給側の論理を優先してしまう、失敗例の典型となっていた。
常識を疑え! 他県から仕入れ、品揃え拡充
「はたけんぼ」は失敗をバネにした。1年目の苦労を生かし、2年目からは品数をいかに増やすか。それに精力を傾けた。生産者にはキャベツやレタスなど葉物野菜に取り組んでもらい、季節ごとの「旬のもの」は大々的にPR販売。地元で生産できない農産物は産地間提携を活用し、他県からも仕入れ、通年で品薄が起きないようにした。
東北地方の直売所では冬の寒さが厳しく、品揃えを1年中確保するのは難しい。佐藤氏はこんな “常識” を疑ってかかった。「地域性の問題で消費者が満足できないのはおかしな話。地元特産を置くだけでは、直売所と同じになってしまう」
品数を確保しながらも、「はたけんぼ」は地元産の比率向上を怠らなかった。その結果、「はたけんぼ」の商品のうち、仕入れ品は2割にとどまり、残り8割の地場調達に成功した。「ファーマーズマーケットの看板を背負う限り、地元で作った新鮮な品物を提供するのが、我々の責任だ。品数でスーパーマーケットに引けを取らず、直売所の良好な品質の両方を維持しなければならない」と佐藤氏は熱く語る。