元来は科学技術庁の外郭機関だった社会技術研究開発センターは「アジア・テロリズム」に関する国際研究会議を組織している。初回はインドネシアのバリ島で開かれ、その後毎年、会場を移して各地で開かれている。
初めてこの会議に招かれた時、私は「どのようにしてテロリストを養成するか(How to make a terrorist? )」という、ややセンセーショナルなタイトルで講演を行い、かなりの反響を得ることができた。
テロリストの養成は意外に簡単
日本ではとりわけ、霊感商法で知られる新興宗教「統一教会」、そして「オウム真理教」からの脱会を中心に、カルト宗教からの離脱とその支援活動の歴史が続いている。
カルトの犯罪手口を慎重に観察すると「テロリスト」を養成するのが、いかに簡単であるかが、よく分かる。
ちょっとした心理的なつまづきを経験した青年をつかまえて、洗練されたマインドコントロールを施すと、相当な比率の青年が、暴力行使をも厭わない「兵士」になる。そのことは、オウム真理教の「地下鉄サリン事件」などの例を挙げれば、明らかだろう。
私はこの現象を「テロリストに生まれるのではなく、テロリストは作られる(Not born, but made)」と表現している。
イスラム原理主義の武装組織がコンスタントに自爆テロ事件を起こすのは、現地に生まれついたテロリストの人材が豊富にいるわけではない。新たに徴兵してきた新人を、立派なテロリストに仕立て上げているのだ。
こうした状況は決して今日のイスラム社会に限ったものではない。例えば第2次世界大戦中の交戦国のすべてに、同様のプロパガンダと兵士育成の経過を指摘することができる。イスラム原理主義の自爆テロの場合、その背景に深刻な貧困の問題があることは、前回も触れた。
カルト宗教にマインドコントロールされている信者を本当に、つまり当人の心の底から脱会させるためには、「マインドコントロールの解除」を行わなければならない。
心理学的には、この「マインドコントロールの解除」は、新たなマインドコントロールを施すのと似たプロセスを経なければならない。霊感商法被害者の場合、この「マインドコントロールの解除」は、個人の信仰を改めさせるという特徴を持つ。この際立った特徴に、各国の注目が集まるのである。