写真:アフロ

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 菅義偉首相が9月3日、「新型コロナ対策に専念したい。総裁選と両方やるのは無理」という理由で、月末の自民党総裁選不出馬を発表した。前日まで意欲を見せていたのに、一夜明けたら突然の辞退表明で、テレビは、政界に「大激震」が走ったと報じた。わたしは、なんだか理由がいまさらだなとは思ったが、ああ、辞めてしまうのかと思った程度だった。

 政治は一寸先は闇、ということでは、一瞬、1939年(昭和14年)に平沼騏一郎内閣が「欧州情勢は複雑怪奇」といっていきなり総辞職したことを思い出した。しかし、あれは欧州政治が原因だったからちょっとちがうなと思い直した。

 ともあれ、政治家たちは「驚き」の感想を述べ、二階幹事長はいつもの木で鼻をくくったような顔で「(首相が)熟慮の上、高い立場から決断した」と述べたにとどまり、小泉進次郎はなんに感極まったのか涙を流した。それを見てわたしは、ああもしここがアメリカなら、進次郎が大統領になる目は永遠に消えたなと思った。この程度のことで公然と涙を流すような軟弱な政治家は、一国のリーダーをとても任せられないからである。

ネット常連のコメントに注目した

 ところで今回の不出馬宣言でわたしが興味を引いたのは、相変わらずなんにでも口をはさみたがる常連のネットご意見番たちのコメントだった。

 一番最初に目に飛び込んできたのは、「ひろゆきが菅首相辞意に持論『親中国の派閥に逆らえない』『外されたのは首相でした』」という記事で、見た途端、これはほんとうか?と驚いた(https://www.chunichi.co.jp/article/323496、中日スポーツ、2021.9.3)。

「ひろゆき」こと西村博之は3日、菅首相の不出馬表明について、「Go To トラベルを進めたり、ウイグル族虐待での中国非難決議を止めた二階議員が幹事長から外されるという話が出た3日後」「外されたのは首相でした」といい、さらに「自民党内では首相でも親中国の派閥に逆らえないようで」と書いたのである。

「え。親中国派閥にやられた? かれの不出馬は中国絡みなのか? ひろゆきはなにかつかんでいるのか?」と一瞬思ったが、かれが自民党内になんらかのパイプを持っているとは到底考えられない。とすると「親中国の派閥」云々はただかれの憶測にすぎないと結論せざるをえない。一部では「論破王」とか「無敵」ともてはやされているひろゆきだが、まったくの見当ちがいか。