クロマグロは資源の枯渇が懸念されている。写真はマグロ初競りの風景(写真:つのだよしお/アフロ)

 秋夕連休(チュソク)を前に、100万ウォン(約9万5000円)になる「高級マグロ名品セット」が完売した。販売元の東遠産業によると、世界全体のクロマグロ捕獲量の0.4%という希少価値の高い魚種だという。それまで日本へ限定輸出していたプレミアム商品を、今回初めて韓国国内向けに販売したそうだ。

 二大名節の1つ、秋夕(旧暦8月15日)の数週間前になると、韓国では毎年、贈答品商戦が始まる。まるでお中元商戦のように、デパートやスーパーには特設コーナーが設けられる。

 ギフト市場では、韓国牛セットならぬ刺身用マグロセットの登場が話題になった。長引くコロナ不況の中、最高級ギフトが即日完売したのである。韓国でのマグロ人気が上昇しているようだ。韓国のマグロ人気について、韓日・日韓翻訳家の石井友加里氏が解説する。

(石井 友加里:韓日・日韓翻訳家)

(1)韓国を代表するツナ缶企業、日本へマグロを輸出

 今回、予約販売1日で売り切れとなった高級ギフトセットは、大トロと中トロを含む2kg分のクロマグロだ。もともとは対日本向けのプレミアムセットで、ヒノキ箱に梱包されており、根わさびとおろし金も入れられている。まるで高級日本食店並みのこだわりが感じられる。

 東遠といえば、韓国ではツナ缶や海苔などで有名な総合食品メーカーだ。もともと遠洋漁業を行っていた会社で、1982年に韓国初のマグロ缶詰を発売した老舗である。現在も毎年4500億ウォン以上の売り上げがあり、ツナ缶の韓国国内シェア1位を誇る。

 同社は、2016年から北大西洋でクロマグロの遠洋漁業を行っている。市場に流通する地中海産クロマグロよりも高値で取引される北大西洋産クロマグロは、韓国国内用よりもマグロ消費大国日本向けだった。

 韓国では、農水産物の輸出先が日本になることが多い。パプリカ、キムチ、海苔などは市場が大きい日本向けに輸出されている。そんな中、高級クロマグロがなぜ国内向けに展開することになったのだろうか。