このように、太陽の影響が軽微であるというIPCCの仮定は、観測結果とは一致しません。

 このパラドックスの理由は、IPCCが太陽の直接放射の変化のみを対象としているためです。これでは、太陽放射の変動は非常に小さいので気候変動にとって重要ではないという結論になってしまいます。しかし、11年の太陽周期の間に海に流入する太陽エネルギーを定量化することは可能です。このような研究では、放射強制力は1.0~1.5W/平方メートルで、対応する日射量の変化よりも10倍近く大きいことがわかっています。したがって、太陽活動を増幅させるメカニズムが存在するはずなのです。

太陽活動が地球の雲量を調節

 この増幅メカニズムの解明には、20年以上も前から熱心な研究が行われてきました。研究によると、驚くべきことに太陽の磁場が銀河宇宙線を調節しているというのです。銀河宇宙線は、太陽系外から飛来する非常に高エネルギーの粒子です。これらの粒子(主に陽子)は、超新星爆発のショックからエネルギーを得ています。銀河宇宙線が太陽系に入射する際には、太陽風によって運ばれる太陽の磁場が支配する空間「太陽圏」を通過しなければなりません。太陽磁場の変化は、地球の大気圏に入る(銀河宇宙線の)粒子の数を調節しているのです。

 この粒子が、地球の大気中にある分子クラスターが安定化するプロセスを助け、最終的に、雲の形成に不可欠な雲凝結核にまで分子クラスターを大きく成長させます。つまり、太陽活動が地球の雲量を調節し、地表に届く太陽エネルギーの量をコントロールしているということになります。

 この仮説は、実験、観測、理論面から支持を得ています。2017年には、宇宙放射線がどのようにして(大気中の)小クラスターの成長を加速させ、雲に影響を与えるほどの大きさまでにするのかを示す、パズルの最後のピースが見つかりました。その結果、太陽活動に始まり、宇宙放射線の変化、大気中の雲の割合の変化、そして最後に地球が受け取るエネルギーの変化という因果関係を示す一貫した理論が存在し、長期的には気候が変化し得ることが示されたのです。