(廣末登・ノンフィクション作家)
人手不足が叫ばれる今、有料・無料の求人誌を街中至るところで目にする。最近では、スマホで求人情報を探せるサイトも充実している。だが、この求人誌を手に取ったことがある人は少ないのではないだろうか。“刑務所限定”の獄中求人誌『NEXT』である。
街中では決して見ることができないこの月刊の獄中求人専用誌を立ち上げたのは「元暴」経営者。筆者は2年前、NHKのニュース番組「シブ5時」に出演したのだが、その際にご一緒したのが、広島県福山市で建設業を営む傍ら、<社会復帰応援求人誌『NEXT』>を発行している山本晃二社長だった。
実は山本氏自身、「赤落ち」(懲役刑)という負の経験を持っている。そのときに、ある気づきを得て「獄中求人誌」の創刊に至った。今回は、その創業者の破天荒な経験と人物像に迫ってみたい。
反発した母親の押し付け型の家庭教育
獄中求人誌――そうした潜在的ニーズに気づくことはなかなか難しい。なぜ、そこに気づきを得たのか。筆者は、山本氏の少年期から現在までの背景が気になり、その点を深掘りした。
山本氏は、少年時代に父親を亡くし、母親と兄、妹の4人家族の家で育った。母親の躾は厳しく、子どもに「自分の理想を押し付ける教育方針」だったという。
「なんでアンタだけ、同じように育てたのに、(他のきょうだいとは)違うの!」
自分だけがいつもそんなふうに叱られた。母親は「子供はこうあるべき」という確固たる子ども像を持っていたが、内心それに反発する自分がいた。その思いは、年を重ねるごとに強くなったという。