米オバマ政権が「残存戦力」減少をにらみつつ、やむなく「持久戦」を選択する中で、米国株は崩落を続けている。2月27 日のニューヨークダウ工業株30種平均は3日続落。終値は7062.93ドル(前日比▲119.15ドル)で、1997年5月1日以来の安値に沈んだ。7000ドルの大台割れが視野に入っている。NYダウの昨年末終値からの下落幅は▲1713.46ドル。下落率は▲19.5%で、年初2カ月間としては過去最悪だという。

 筆者が作成している前日比200ドル超の騰落日数カウントでも、今年に入ってからは1月が「3勝4敗」、2月が「2勝3敗」で、負け越し続き。米大統領選が行われた昨年11月以降を見ても、勝ち越しになった月はない。景気楽観論が強まる場面、いわゆる「オバマ期待」相場をつくりだすことさえも実現困難なのが実情と言える。サブプライム危機と言われた2007年8月以降を見ても、勝ち越した月は、2008年3月、4月、8月の3つしかない。

 

 金融不安と実体経済悪化の「負の相互作用」が起こっている中で、米国経済は悪化の度を増している。経済の柱である個人消費は、「三重苦」の様相。(1)米家計の借金依存体質を半強制的に修正する方向で作用しているクレジットクランチ、(2)米家計のキャピタルゲインに依存した消費上乗せをつぶしている住宅価格と株価の同時大幅下落、(3)雇用情勢が急速かつ大幅に悪化する中での消費マインド急低下、以上3つの悪材料が累積的に、米国の消費を押し下げている。10-12月期の実質GDP暫定推定値は前期比年率▲6.2%に下方修正されたが、うち個人消費の寄与度は▲3.01%分となっている。

 オバマ政権には、マクロ経済政策の発動余地が現実問題として残り少ない中でスタートを余儀なくされたというハンデがある。

 「株価は下げたくないが、長期金利も上げたくない」

 オバマ政権が陥っているジレンマを簡潔に言い表せば、このようになる。公的資金をより一層活用していかないと、金融システムがもたない。しかし、投資家の不安心理をあおって株価を急落させるようなことは避けたいので、「大きすぎてつぶせない」原則を守る一方で、大手金融機関の国有化という選択肢は取らない。そこで折衷策として、優先株の普通株転換による実質的な公的管理というアイデアに落ち着いたのだろう。既存株主の保有価値が希薄化することで株価にはネガティブな措置ではあるが、国有化で既存株主が保有する株の価値がゼロになるよりは「まだまし」という、苦渋の選択なのだろう。

 米政府・FRB(米連邦準備理事会)が公的管理をすでに行っているGSE(政府支援法人)や大手生保についても、追加損失発生に対する後追い的な対応が目立つ。一段の財政赤字拡大につながる対策には、国債発行の急増でこのところ消化不良に陥っている債券市場の状態や、「小さな政府」を志向する共和党の抵抗が予想される議会審議がカベになるので、抜本的な対応に踏み出すのは難しい。

 気になるのは、オバマ政権が選択した「持久戦」に勝算はあるのかどうか、という点である。「負の相互作用」ゆえに、景気は時間の経過とともに悪化し、金融機関損失は時間の経過とともに増大する。例えて言えば、オバマ政権から見た「敵の戦力」は、日に日に増大しているわけである。これに対して、米国の側にある強みとなると、ベースラインの国内需要を上向きにしている着実な人口増加という事実に加えて、危機に直面して発揮されることが期待される米国人の潜在的な能力という、オバマ大統領が2月24日に上下両院合同本会議で行った施政方針演説の中で奮起・覚醒を期待した力ということになるのだろう。

 バーナンキFRB議長は同じ日に上院銀行委員会で行った証言の中で、政府・議会・FRBが取った行動が奏功して金融システムが安定を取り戻す場合には、個人的な考えではそうした場合にのみ、リセッションが今年終わり、2010年が景気回復の年になるだろうという合理的見通しが成り立つ、と述べた。ということは、裏返して言うと、金融システムが安定を取り戻さないとリセッションは2010年も続くということである。また、バーナンキ議長は、FOMC(米連邦公開市場委員会)による最新経済見通しは、現在のリセッションからの十分な回復が実現するには2~3年以上かかるだろう、という見方を反映したものである、とも述べていた。これは非常に厳しい見通しである。分かりやすく言うと、「失われた10年」とまではいかなくても、「失われた4年」くらいまではFOMCは覚悟している、ということである。

 日本の株価は、米国のそれに比べて底堅く推移しており、下げ幅は今のところ限られている。また、日本の債券相場は、米国のそれに比べて底堅く推移しており、長期金利はほとんど上昇していない。

 この状況が今後どう変わってくるか。筆者は、日本の株価は企業収益見通しの下方修正継続に沿って考えれば、年度内か年度明けかはともかく、一段の下落が避けられないと見ている。2日に発表された2月のQUICKコンセンサスDIは全産業(金融含む)で▲79となり、2月中旬速報よりも悪化していた。一方、日本の債券相場は、景気・物価・金融政策見通しから強い追い風を受けており、年度が替わって機関投資家の運用面の制約が軽くなると、上昇しやすくなるものと予想している。