オザンは18歳。いまは日雇いで解体の仕事をしている。その仕事さえ、仮放免許可の立場では許されないのかもしれない。それでも2カ月に一度、「仮放免許可書」をもらうために受ける面接で入管職員はなぜか見て見ないふりをする。

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「働いちゃいけないルールなんだよ」「働かないで、どうやって生きていけばいいんですか」「それは私たちではどうすることもできないよ。自分たちで考えて」。人を人とも思わないような職員の態度に驚かされる。10代の男の子の方がずっと大人だ。職員の我慢ならない態度に激昂することなく、かわしてゆく。ここで生きていくしか道はないから。

生殺しの日々

 理由もなく、収容所に何年も拘束される人もいる。捕まらないだけまし。それなのに、「帰ればいいんだよ。他の国に行ってくれ」と職員は投げやりに言う。

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 危険を逃れて、日本にたどり着いたのに。来たくて来たわけじゃないのに。それを知っていながら、「帰れ」という。親たちは故郷だからだろう。いずれは帰りたいという。でも、オザン、ラマザンのような若者はトルコにいた時のことは小さすぎてあまり覚えていない。帰って戦うのも怖い。日本で育った普通の若者なのだ。両親たちは伝統的な料理を食べているが、オザンは一人の時、カップ麺やコンビニ弁当を食べている。日本の若者と変わらない。

 解体業の仕事をしていると「君なら、どこでも仕事できるでしょう」と言われる。若くて明るくてちょっとやんちゃそうで、人に好かれそうなオザン。やりたいことはないのか。幼い頃、夢中だった野球はいじめがきっかけでやめてしまった。それ以来。両親は自分に期待しなくなったという。ラマザンと違い、オザンは横道にそれてしまった。

 そんなオザンをラマザンは変わらず、励まし続ける。「能力があるのに無駄にしてる」。ラマザンに背中を押され、オザンは外国人タレント事務所の試験を受ける。彼なら適任だと誰もが思うだろう。担当者も乗り気で、すぐにでも番組出演が決まりそうな勢いだ。ところが、いや、やはりというべきか、彼らは就労してはいけない身なのだ。テレビに出るなんてとんでもない。結局、危険な日雇いの仕事に戻るしかない。やりたいことがあれば応援する。父親はそういっているが、オザンは悲観的だ。やりたいことができるのか。思い描くだけ無駄なのではないか。