大統領選への出馬を表明した尹錫悦氏(写真:AP/アフロ)

 2022年5月の韓国大統領選挙を見越した動きが、ここに来て慌ただしくなりつつある。有力候補と目されて来た人物がここ数カ月で相次いで動きを見せ、大統領選挙を意識した発言を始めているからだ。

 こうした中、早くも韓国らしい足の引っ張り合いとネガティブキャンペーンが始まっている。この国の正義と民意をまざまざと見せつける展開だ。

 これまでに大統領候補として、日本や米国に対する敵対心をむきだしにしている京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)氏、前首相で、これまた竹島問題を持ち出し「東京オリンピックボイコット」について言及した李洛淵(イ・ナクヨン)氏といった顔ぶれが注目されている。

 その中で突如として浮上した新星が、前検事総長を務めた尹錫悦(ユン・ソンギョル)氏である。1960年生まれの尹氏は法の道を志し、韓国の最高学府であるソウル大学の法学部に入学した。在学中は日本の一橋大学にも留学しており、将来を嘱望された人物だったという。

 また尹氏は、若き頃から大胆でかつ一貫して意思を貫くタイプだった。

 1980年に起きた光州事件の模擬裁判を大学の授業で実施した時のこと。検事役として授業に臨んでいた尹氏は、「弾圧行為に踏み切った」として、当時の大統領だった全斗煥(チョン・ドファン)氏に死刑を求刑した。

 模擬裁判とは言え、当時は軍事政権下で、現在以上に大統領の権限が強かった時代である。また、将来的に司法に関わる人材の卵でもある法学生が大統領に「死刑」を求刑するとは前代未聞であり、問題視された。

 ちなみに、尹氏は優秀な学生でありながら司法試験の合格までに9年を要している。理由は定かではないが、前述の学生時代の模擬裁判が影響を及ぼしているという見方がある。

模擬裁判で次期大統領候補の尹錫悦氏に死刑を求刑された全斗煥元大統領。当時は軍事政権下であり、授業の模擬裁判とはいえ、現職大統領に死刑を求刑することは異例のことだった(写真:AP/アフロ)