今年2月初旬、一般紙やテレビを通じ、有名私立・国立中学受験の様子がつぶさに伝えられたことをご記憶の読者は多いはずだ。

 少子化の進展、ゆとり教育の弊害が叫ばれる公立校への不信感を背景に、中学受験熱は年々高まるばかり。大手塾の調べによれば、首都圏では約6万2000名の小学6年生が難関校に挑戦、過去最高の受験者数を記録した。首都圏全ての6年生の中で、実に5人に1人に達する割合だ。

 受験適齢期を控えた子供を持つ筆者にとっても切実な話だけに、一昨年以降、周辺の取材を本格化させてきた。しかし、過熱する一方のブームとは裏腹に、難関校合格に向けた必須アイテムである「塾」の内実に関し、首を傾げざるを得ない事象が相次いで浮かび上がってきた。

 特に、子供たちと直に接する塾講師の疲弊ぶりには驚かされた。今回はその一端を紹介する。

塾講師の悲鳴が聞こえる

 「・・・この教室の先行きはどうなるのでしょうか。来月から一緒に働いていた正社員が退社するのに、未だに後釜が決まっていない状態です。つまり、スタッフ間の引継ぎすら十分に出来ないのです。こんな状況で、全ての子供達の親との面談が控えるほか、個別の授業管理は減りません。そして本社からは集客と授業コマ数増加と様々な命令が出され続けています。果たして私自身が生きていられるか心配です(笑)・・・」(原文ママ)

 これは、某大手塾で相当数の生徒を抱える拠点マネジャー級の講師が筆者に送ってきたeメールの一部。着信時期は昨年末、年明け2月の本番直前だ。

 JRや私鉄主要駅前で必ず目にする、中学受験指導を行う大手塾の看板。その中の1社だと思っていただきたい。受験者数の増加とともに、大手塾も体制を強化し続けている。しかしその一方で、塾の正社員である講師の悲鳴は日を追うごとに増えているのだ。

 普通の企業であれば、利用者数が増えればそれとともに業容を拡大していく。ただ、塾の場合、顧客となる生徒、それに保護者は生身の人間である。外食産業や流通企業のように、社員に一律のマニュアルを渡し、均一的なサービスを提供すれば済むというわけにはいかないのだ。先に挙げた塾講師責任者の悲鳴は、大手塾の正社員講師に共通する苦悩であり、苦痛でもある。

新規開校ラッシュで競争激化

 私にメールを送ってきた講師によれば、本社からの「集客指令」や、授業の「コマ数増」のプレッシャーはここ数年、格段に高まっているという。