多くの地方自治体が「このままではが行政サービスを提供することが困難になる」という危機感を持っている。これに対し、県庁改革、働き方改革、社会問題解決という3つの「スマート」で変革を目指す三重県の取り組みを紹介する。(JBpress)
※本記事はPublicLab(パブラボ)に掲載された「コロナ禍における地方自治体変革の方向性 三重県「スマート改革」を通じて見る、地方自治体の現在地」を再構成したものです
(横山啓:三重県スマート改革推進課長*)
*執筆時(2021年3月)時点
コロナ禍によって世界中の人々が苦しい立場に置かれているが、対応に当たっている日本の行政機関の職員にとっても、業務時間の増大などにより昨年は極めて厳しい年であったと思う。行政需要に対応するのが地方自治体の仕事なのだから当然だろう、と多くの読者は考えるかもしれないが、地方自治体がこうした行政需要に対応していくことは限界に近づきつつあると感じている。
総務省の「自治体戦略2040構想研究会」は、人口減少社会となり、労働力確保もさらに困難になる状況を見据え、地方自治体の生産性向上などを目指す「スマート自治体」を提唱した。これをきっかけとして全国的に「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ブーム」も生まれた。
コロナ禍以前から、地方自治体の人的、財政的リソースは制限されてきており、行政需要への対応力が脆弱になりつつあることが指摘されていた。だが、2040年という先を見据えるまでもなく、コロナ禍は地方自治体の変革が待ったなしであることを明らかにしてしまった。
デジタル化が進んでおらず、給付金の支給が人海戦術になり、極めて非効率であったことは、どの自治体も経験しているところだと思う。コロナ禍にプラスして豪雨・豪雪災害が起きた地域や、豚熱(CSF)・鳥インフルエンザなどへの急な対処を要する課題が生じた地域もあり、これだけ多くの行政需要を同時にさばくことは不可能だと実感した自治体も多いのではないだろうか。
このままでは行政サービスが崩壊する
三重県では、「このままでは県庁が継続的に行政サービスを提供することが困難になる」という危機感の下、2019年度から、デジタルも活用しながら県庁業務の在り方や職員の働き方を見直す「スマート改革」を進めてきた。最近のはやりである自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)を先取りした取り組みだと考えているが、2021年度からは、「デジタル社会推進局」を設置し、デジタル社会形成のトップランナーを目指している。
この「スマート改革」の取り組みと、「デジタル社会推進局」設置について、前後編とテーマを変えながら2回にわたってお伝えする。組織の変革を進めたいと思っている地方自治体関係者のみならず、これから地方自治体のサポートを考えているビジネス関係者にとっても参考になれば幸いである。なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをお断りする。
「このままでは県庁の行政サービス提供が崩壊する」。これは、2019年に三重県庁若手職員による「スマート改革検討チーム」が立ち上がった際に共有されていた問題意識である。
現在、三重県庁では40歳以上の職員が全体の約7割を占めており、今後20年間でこれらの職員が退職する一方、新規採用についてはそれを補うほどには行っておらず、少子化などによる志望者数の減少などにより、人的リソースの減少は避けられないと考えられている。