フィレンツェの街並み

 イタリアと言えば、現在もファッション産業の中心地で、世界中で愛される高級ブランドをいくつも抱える、きらびやかなイメージの国です。

 さらに歴史を遡れば、中近世にはルネサンスを経験し、のちのヨーロッパ文化の礎を築いたことでも知られます。また、イタリアでは金融業、毛織物業などが発展していました。香辛料貿易で繁栄したことも知られています。

 このように、昔からイタリアは非常に発展した豊かな地域だったとのイメージを持たれがちです。

 しかし、実は中近世のイタリア経済にはそれほど大きな力はなく、近代世界を形成する大きな支柱とはなりえませんでした。

 すでに連載の第23回で「イタリアが『欧州一の先進国』の座を失った理由」について述べましたが、今回は、イタリアの経済システムは、近代的な経済成長につながるものではなかったことを示したいと思います。

イタリア経済はなぜ発展できなかったのか

 スウェーデン経済史の泰斗ラース・マグヌソンによれば、フィレンツェやヴェネツィアのような都市国家は、昔から工業が繁栄していました。すでに13世紀において、フィレンツェには産業革命が開花するために必要な条件がほとんど揃っていたと言います。それは特に毛織物産業で強くみられた現象ですが、皮革の生産・なめし他の生産分野においても、裕福な商人によって前貸問屋制工業に資金が提供され、組織化されるなど、成長のための条件が整っていました。13世紀初頭のフィレンツェは、キリスト教世界最大の都市であったのです。

ヴェネツィアの運河

 それほどまでに先進的であったイタリアですが、持続的経済成長は達成できませんでした。それは、なぜだったのでしょうか。