欧米では若いうちから遺言書を書く

 ──でも、なかなか自分の親に対して「相続の準備をしてほしい」とは言いにくいかもしれないですね……。特に、まだ現役で働いていたりする場合は。

 菰田 確かに親の感覚としては「税金がいくらかかるか知らないけど、ちゃんとお金を残すんだから文句を言わないで」ということですし、直接のメリットはないですよね。でも、亡くなったあとで子どもから「ありがとう」と思ってもらえるか、準備しなかったから兄弟でもめてしまい、みんなから文句を言われるか、どっちが気持ちいいかとなると、やっぱり感謝された方がうれしいですよね。

 子どもたちがもめなくてもいいように、遺言書を書くことも家族へのプレゼントになります。土地や家のように単純に分けることが難しい財産を子どもたちにどう分けるか、遺言書で意思を記せば、その気持ちは子どもに伝わり、あとでもめることも少なくなると思います。

 ──遺言書も早めに準備しておいた方がいいのでしょうか?

 菰田 遺言書は若いうちに書いたからといって、節税効果のような目に見えるメリットがあるものでもないのですが……。実は、私は今37歳ですが、もう遺言書を書きました。

 ──まだお若いのに!

 菰田 欧米では、若いうちから遺言書を書くのが普通みたいですよ。日本人でも、結婚したり子どもが生まれたりすれば、自分に万一のことがあっても家族が困らないように、生命保険に入りますよね。それと同じ感覚で、欧米の人たちは遺言書を保険とセットで用意するのだそうです。

 遺言書は何度でも書き換えられるものなので、結婚したらまず遺言書を書いて、子どもが生まれたら書き換えて、マイホームを建てたらまた書き換えて……というように何度も遺言書を書き換えていくのが日本でも当たり前になれば、相続でもめる家族は減っていくと思います。

菰田泰隆さん

遺言書は手書きで、印鑑と署名と日付が必要

 ──ところで遺言書って、どうやって書けばいいんですか? どんな手続きが必要なのでしょうか?

 菰田 遺言書は特に決まった手続きはいらなくて、ご自宅で、何の紙でもいいので書いていただければ良いです。

 ただ、法律上決まっている要件がいくつかあって、ひとつは手書きで書くことです。最近の法改正で、預貯金や不動産の目録などは印刷したものでも良くなりましたが、「どの財産を誰に相続する」といういちばん大事なところは手書きで書く決まりになっています。あとは相続する人の署名と印鑑、遺言書を書いた日付があれば、法的に有効な遺言書になります。

 でもそうは言っても、具体的に何をどう書けばいいのか、そもそも財産をどう分ければいいのかはとても難しい問題ですよね。そんなときは、ぜひ私たちのような専門家に相談していただきたいと思います。資産状況や家族構成などをもとにこちらでプランを立てて、遺言書の見本をパソコンで作りますので、それを紙に手書きで写していただくだけで遺言書ができます。

 ──作った遺言書はどうすればいいんですか?

 菰田 これについては昨年7月に「自筆証書遺言書保管制度」というものができまして、法務局で遺言書を保管してもらえるようになりました。最寄りの法務局の支局へ持っていけば、遺言書を預かってくれます。

 これまでは遺言書は弁護士や税理士の事務所で預かってもらったり、ご自宅に保管したりする場合が多かったのですが、もしかしたら火事や盗難で紛失してしまうかもしれません。法務局で保管できると安心ですよね。

 新型コロナウイルス感染症の流行で、「いつ何が起きるかわからない」という思いを強くした方は多いと思います。万一のときに後悔がないように、家族のため、あるいは自分のために、今から遺言書を書いておくと良いと思います。