改正「高年齢者雇用安定法」における“努力義務”とは? 罰則の有無も解説
2012年改正では「65歳までの雇用確保措置」が事業主の“義務”となっていたが、2020年改正における「70歳までの就業確保措置」は“努力義務”とされている。「必ずしなければならない」義務に対して、「努めなければならない」のが努力義務だ。ようやく「65歳」への対応を終えたばかりの事業主も多い中で「70歳」を強制的な“義務”とするのは時期尚早、社会的な合意も形成されていない、という視点から努力義務にとどめられたと考えていいだろう。
だからといって怠っていいわけではない。前述の5つの措置のうち、どれを導入するのか、検討・準備し、具体的なアクションを起こすことが求められる。「何もしない」はもちろん「ひとまず67歳までの継続雇用制度は導入した」でも不十分で、引き続き「70歳までの制度導入へ向けて努力を続ける」ことが必要とされる。
また「高年齢者雇用安定法」はすべての企業に適用されるため、自社に高年齢者がいない場合でも対応する努力義務を負うことには注意しなければならない。
努力義務を果たしていないとしても罰則はないが、行政指導の対象(ハローワーク等からの指導・助言、状況が改善しなければ措置導入の計画作成を勧告、それでも従わなければ社名公表)となることはあるため、真摯に対応を進めたいところである。
押さえておきたい「継続雇用制度」のポイント
継続雇用する制度としては、「勤務延長制度」と「再雇用制度」の2種が考えられる。「勤務延長制度」は、文字通り、そのまま雇用を延長する制度だ。通常、役職、賃金、労働条件等の変更はない。一方「再雇用制度」では、定年に達した時点でいったん退職扱いにし、雇用契約を再度締結することになる。こちらの場合、役職、賃金、労働条件等は見直されることが一般的である。
事業主および個々の高齢者の事情に合わせて、フレキシブルな契約形態を選択できる「再雇用制度」の方が、より導入しやすいといえるだろう。この「再雇用制度」において配慮しなければならないのが、以下の4点だ。
●役職・賃金など処遇の見直し
契約社員や嘱託社員などに雇用形態を切り替えて再雇用する際には、前役職から解かれ、それに応じて賃金を下げるという形が一般的だ。ただし、同一企業内における正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止した「パートタイム・有期雇用労働法」などの観点から、過度な賃金カットは避けるべきである。対象となる高齢者の事情、仕事内容、責任範囲などを十分に検討したうえで、労使双方に不満のない契約内容を設定することが求められる。
●勤務形態の見直し
高齢者の体力、運動能力、健康状態は個人差が大きく、ライフ・ワーク・バランスに対する考え方もそれぞれ異なる。個々の希望や状況に合わせて勤務形態、労働日数・労働時間などを見直すべきである。
●特殊関係事業主および他社での継続雇用
「65歳までの継続雇用制度」は、自社および特殊関係事業主(いわゆるグループ企業や関連企業)での雇用が条件となっていたが、「70歳までの継続雇用」は他社での継続雇用も可能とされている。その場合、「当該の高年齢者を他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結する必要がある」、「可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識・経験・能力等に応じた業務内容及び労働条件とすべき」、「継続雇用される高年齢者の知識・経験・能力に係るニーズがあり、これらが活用される業務があるかについて十分な協議を行う」といったことに留意しなければならない。
●無期転換ルールに関する特例
「無期転換ルール」とは、同一の使用者(事業主)との間で、有期労働契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合、労働者の申込みによって無期労働契約に転換できるというものだ。ただしこれには特例がある。適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主(特殊関係事業主を含む)の下で、定年後に引き続いて雇用される期間は無期転換申込権が発生しないこととなっている。一方、他社で継続雇用される場合は特例の対象にはならず、無期転換申込権が発生する点には留意が必要である。
「高年齢者雇用安定法」改正にあたって企業が準備しておくべきこと
厚生労働省では「改正法が施行される2021年4月1日時点で、70歳までの就業確保措置が講じられていることが望ましい」としている。施行後に対応を始めるのではなく、前もって以下の準備を進めておくことが必要だ。
●措置の選択
前述の5つの措置のうち、どの措置を講ずるか、労使間の十分な協議、個々の高齢者からの聞き取りを済ませたうえで、方針を決定しておきたい。
●措置の対象者の設定
2012年改正における「65歳までの雇用確保措置」は、希望する高齢者全員を対象とした制度の導入が義務となっていた。一方、2020年改正の「70歳まで継続雇用する制度」などでは、対象者を限定することが可能となっている。ただし対象者基準の内容は、過半数労働組合などと十分に協議して同意を得ることが望ましいとされている。労使間で十分に協議して設定した基準であっても、たとえば「会社が必要と認めた者に限る」「上司の推薦がある者に限る」といった曖昧な基準、「男性(女性)に限る」といった差別的な基準は、法改正の趣旨や他の労働関係法令に反するものであり、不適切とされているため注意が必要だ。
●高年齢者雇用状況等報告
事業主は、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用に関する状況を「高年齢者雇用状況報告」としてハローワークに提出しなければならないが、2020年改正により、この報告書は、70歳までの措置に関する実施状況、労働者への措置の適用状況に関する報告が追加された新様式に変更となった。2021年の報告から対応しなければならないため、早急な準備が不可欠である。
●高年齢者が離職する場合の対応
離職する高年齢者に対しては、求職活動に対する経済的支援、再就職や教育訓練受講などの斡旋といった「再就職援助措置」を講じなければならない。これまでは「解雇その他の事業主の都合で離職する45歳~65歳」が対象だったが、2020年改正により、65歳以上70歳未満の者や、対象者基準に該当せず離職する高年齢者なども対象として追加された。より幅広い高年齢者の再就職をサポートする必要が生じるわけで、その対応準備を進めておかなければならない。