中流階級の拡大で水の消費はさらに増える

 水の需要は農業用水、工業用水、生活用水の3つに大別されます。割合としては農業が70%、工業が20%、生活が10%です。これらの3つの分野すべてで近年、水の需要が急増しています。

 人口が増加すると飲み水などの生活用水の必要が増しますが、より重要なのがその地域の人たちの食料の増産です。食料を生産するための農業、畜産業でさらに多くの水が必要となります。

 しかも世界はただ人口が増えているだけではありません。貧困にあえいでいた何億という人たちが生活水準を向上させ、中流意識が芽生えることによって新たな生活、よりよい生活を求めるようになっています。

 世界の中流階級は、2000年までは14億人くらいでした。それが中国、インドという人口大国の経済発展に伴って、2009年には中流階級は18億人を超えました。2020年には30億人を突破すると予想されています。

 よりよい生活を送る人が増えるということは、人道的に見れば喜ばしいことですが、水資源の需要の面からは問題を多く抱え込むことになります、毎日シャワーを浴び、緑の芝生を植え、裏庭にはプールを据えつけます。

 なによりもタンパク質中心の食生活への転換が大量の水消費を助長します。肉食への転換が進むことで水の消費はさらに増えることになります。

 人ひとりが一日に必要とする飲料水は2.5リットルですが、ひとり分の一日の食料を生産するためには水が2000~5000リットルは必要とされています。

 たとえば、牛肉を1キログラム生産するのに、20600リットルの水が必要です。同じように豚肉を1キログラム生産するには5900リットル、鶏肉1キログラムには3200リットルの水が要ります。

 チーズ1キログラムには3200リットル、コメ1キログラムには3700リットル、パン1キログラムには1600リットル、牛乳には550リットルの水が必要です。

 小麦1キログラムの生産には2000リットルの水が必要です。トウモロコシには1900リットル、大豆は2500リットル、卵は3200リットルの水が要ります。野菜もビニールハウスで育てれば燃料がかかり、天然ガスを掘削するには水圧破砕法によって大量の水が用いられます。

地球温暖化により水の供給量は徐々に減少

 それに対して水の供給量は、地球温暖化が影響して徐々に減少しつつあります。

 温暖化によってもたらされる異常気象は干ばつや熱波を引き起こし、地上では渇水状態が長く続いている地域が増えています、オーストラリアは近年、何度も干ばつに襲われています。

 温暖化はハリケーンや集中豪雨などの異常な天候の原因となっています。豪雨は水の供給面にとってありがたいようにも思われますが、実際にはハリケーンによって洪水や土砂崩れが発生しやすくなり、森林の生態系が破壊されてその地域が備えていた保水力が損なわれます。

 乾季が長期化していることで山火事も頻繁に発生して、これに干ばつや熱波も山火事の原因として加わります。山火事が起こると森林が広範囲にわたって消失し、ここでも保水力が失われて鉄砲水などが起こりやすくなります。温暖化によって気温が高くなれば、農作物はより多くの水が必要となります。工場での冷却水も同様に増加します。

 世界中で水の需要が増加し、同時に供給が減少しつつある状況が続く結果、2050年には世界中の少なくとも40%を超える人々の間で、水に関するストレスが高まることが予想されています。

 「水ストレス」とは、水の需給関係がひっ迫している状態を指します。「一人当たりの最大利用可能な水資源量」をひとつの目安に用いた場合、この数値が1700立方メートルに満たないと「水ストレス下にある」、1000立方メートルに満たないと「水不足にある」と判断されます。

 一人当たりの利用可能な水資源量が1000立方メートルに満たない「水不足」の状態にある人は、20世紀初めは世界人口の2%と見られていました。それが1960年には9%に達し、2005年には35%に届いたという報告もあるほどです。

 もともと降水量の少ない砂漠地帯では、水に関するストレスが高くなる傾向があります。それが人口の増加と経済発展により、水の利用量が急激に増大しているため、水ストレスに直面する地域が急速に拡大しています。

 しかも水危機は発展途上国だけの問題ではありません。中国やインドのような、世界の主要な貿易相手国であり、世界経済の原動力となっている国々において、すでに水不足に直面しつつあります。

 世界ではすでに6億人の人たちがすでに水不足に陥っており、15億人、世界の20%がなんらかの形で影響を受けているとされています。水を巡る危機の第一段階はすでに始まっており、最終的には地球の6割が水不足の状態に姿を変えてしまうと危惧されています。