「生産性向上」の取り組みにおける重要な5つのステップ

「生産性向上」を目指す際の具体的な施策について、ここでは5つの取り組みについて説明しよう。

(1)業務の可視化
 業務フロー、コスト、労働時間、従業員のスキルやポテンシャル、実際に発揮しているパフォーマンスの質と量などを可視化することで、インプットの種類と量、インプットに対するアウトプットの量も明らかとなり、ムダな部分やボトルネック、不足しているスキルや人数など、「生産性向上」へ向けての課題も浮かび上がってくる。「生産性向上」のPDCAサイクルを回すためにも、業務の可視化は重要である。

(2)ノンコア業務のアウトソーシングとコア業務への投資集中
 業務を可視化した結果、ノンコア業務が肥大化していて、本来注力すべきコア業務にリソースを振り分けられていない実態が判明することもある。ノンコア業務の分割やアウトソーシングによって従業員の負担を軽減できれば、アウトプットを直接生み出すコア業務への集中を促すことになる。ノンコア業務の引き継ぎや指導が不要となるのもアウトソーシングのメリットだ。もちろんコスト的な問題や、外部業者との連携が確立するまでは一時的に生産性が落ちる可能性などもある。そのため、中長期的な視点で考えるべき施策といえる。

(3)適材適所の配置と人材育成
 各従業員について、スキルやパフォーマンス、将来的なビジョン、ワーク・ライフ・バランス、周囲との人間関係など、さまざまな要素を可視化することで、生産性を最大限発揮してくれるような人材の配置・配属が可能となる。

 従業員の教育も不可欠だ。個々のスキルアップは作業の精度や効率を向上させ、「生産性向上」へとつながる。将来的に必要となる人材の計画的な育成も実現できれば、中長期的な視点での「生産性向上」も図れることになる。社員教育を通じて個々の従業員が生産性を強く意識しながら働くようになれば、企業全体としての「生産性向上」もスムーズに進むだろう。

 こうした戦略的な人材配置と活用、人材育成には「タレントマネジメント」の導入が効果的である。

(4)従業員のモチベーション維持・向上
 エンゲージメントやモチベーションが高い従業員は、生き生きと働き、大きなアウトプットをもたらしてくれる。逆にエンゲージメントやモチベーションが低いと、ミスが増え、効率は落ち、生産性も下がる。またエンゲージメントやモチベーションを高めることで、優秀な人材の外部流出と、それにともなう生産性の大幅な低下を防止することも可能だ。

 適切な人材配置と人材育成、働き方改革の推進、労働環境の改善、メンタルヘルスケア、提案制度など、各種の施策でエンゲージメントおよびモチベーションの維持・向上に取り組みたい。

(5)テクノロジーの導入
 デジタルツールの活用、モバイル端末の導入、ペーパーレス化、クラウドサービスを利用した情報の共有など、各種テクノロジーの導入は、従業員の負担を軽減し、作業効率を上げ、「生産性向上」の効果を発揮する。

 とりわけ注目を集めているのがRPA(Robotic Process Automation)である。RPAは、データ入力、在庫確認と発注、ユーザーからの問い合わせに対する回答といった定型業務を、AIに学習させて自動化する取り組みだ。ミスやロスの抑制、作業効率の上昇、人件費の削減、コア業務への集中促進など、RPAには多くのメリットがあり、「生産性向上」に欠かせないものとして各企業で導入が進められている。

課題となってしまう「生産性向上」の取り組みで陥りがちな過ちとは?

「生産性向上」のための取り組みは、十分な検討や計画性もないまま拙速に進めてしまうと、望ましくない事態に陥ってしまう恐れがある。

●過度なマルチタスク化は避ける
 各業務に専任の者を置くのではなく、ひとりの従業員が複数の業務を担当する「マルチタスク化」を進めることで、労働者数というインプットは減るため、生産性も上がると思われがちだ。だがマルチタスクは、より大きなエネルギーを要し、ストレスを生み、判断力を低下させ、結果的に作業効率を下げることが知られるようになってきている。

 マルチタスクに向いている業務はあり、マルチタスクに適性を発揮する人材もいるが、異なるスキルや知識を必要とする種々の業務をひとりに背負わせてしまうような施策は極力避けるべきである。

●長時間労働・時間外労働につながらない施策を
 労働者数を抑えつつ一定の労働量を確保するため、ひとりあたりの労働時間を増やすという施策を取る企業がある。確かに見た目の生産性は短期的に上がるだろうが、従業員にとっては過度な負担となり、本質的には「生産性向上」に寄与するものではない。過労死というリスクも生じる。

 逆に労働時間というインプットを制約しすぎるのも考えものだ。労働量に比べて少ない時間しか与えられないと、仕事を持ち帰らざるを得ず、時間外労働が増え、ワーク・ライフ・バランスが崩れてモチベーション低下を呼んでしまう。

 業務内容と業務フロー、人員の数とスキルなどを総合的に勘案し、無理のない施策を立案・実行すべきである。

●「業務効率化」のみに特化するのではなく全体的な施策が重要
 業務の中に潜む“ムダ”を省くことは、どんな現場においても意識しなければならない課題だ。ムダを省くことで、工数、所要時間、コスト、人員、総労働時間などを抑えられれば、生産性も向上することになる。ただし、ムダの省略は、いわば「業務効率化」であり、インプットを小さくするための取り組みに過ぎない。重要ではあるものの、あくまで「生産性向上」へとつながる“施策の1つ”であると捉えることが望ましい。

 ムダを省略して作業時間を減らしつつ、従業員のスキルアップを図って生産量を増やすなど、インプットとアウトプットの双方を考慮しながら「生産性向上」を目指すべきである。

「生産性向上」への取り組みを効果的に進めるために

「生産性向上」を目指す場合、経営陣が一方的に数値目標だけを現場へ押しつけたり、業務や人員の過剰な整理削減を推し進めたりすることは避けなければならない。一時的に数字は向上し、生産性は上がるかも知れないが、どこかでマルチタスク化や労働時間の増加が生まれ、従業員のモチベーションは下がり、すぐに限界を迎えてしまうだろう。「生産性向上」のための各種施策は、現場の状況に合わせて中長期的かつ総合的な視点で立案・実施すべきである。

 また従業員個々の生産性を上げようとすることも望ましくない。一人ひとりが数値目標に追われるような状況では、ストレスが生じ、逆に生産性を下げてしまう恐れがある。チーム単位やプロジェクト単位で「生産性向上」に取り組むことがベターである。

 昨今では、新型コロナウイルスの影響も看過できない。テレワークの普及など働き方は大きく変わり、リモート会議や“ハンコレス”の推進など商慣行もアップデートされつつある。ニューノーマル時代に合わせた施策を検討・実現していくべきだ。

 もっとも重要なのは目的・目標の明確性である。前述の通り、労働力人口の減少や国際的競争力の弱化といった問題を解決するために「生産性向上」は必要とされている。つまり「少ない労働量でも十分な成果をあげる」、「価格競争力をつけて国際市場で生き残る」といったことが目標となるわけだ。

 そのうえで、何をインプットとし、何をアウトプットとして設定するのか、具体的な指標、成果が出るまでに見込む期間などを明確にし、会社全体・チーム全員が同じ価値観を共有することが、「生産性向上」の実現に向けては重要である。
 

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HRプロ編集部

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