厚生労働省(以下、厚労省)は2021年2月5日、「産業雇用安定助成金」の創設と運用開始を発表した。これは、新型コロナウイルス感染症拡大により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を在籍のまま出向させることで雇用を維持する場合、「出向元」と「出向先」双方の事業主を対象に助成するというもの。なお、2021年1月1日からの出向に対して適用されるという。

新型コロナの影響による雇用調整を目的とした「在籍型出向」を行う企業が対象

 昨今の新型コロナウイルス感染症拡大を受け、事業活動の一時的な縮小を余儀なくされる事業者は多い。このような状況を受け、厚労省は雇用を守ることを目的として従業員の出向を行う企業に対し、その費用の一部を助成する新たな制度「産業雇用安定助成金」を新設した。本制度の対象は、出向により従業員を送り出す「出向元事業主」と、当該従業員を受け入れる「出向先事業主」の双方となる。

 助成対象となるのは、2種類の経費だ。ひとつ目は「出向運営経費」で、出向元事業主および出向先事業主が負担する賃金や、教育訓練および労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費が該当する。もうひとつは、出向の成立に要する措置を行った場合に対象となる「出向初期経費」で、就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品整備などとなる。このうち「出向運営経費」の助成率は、「出向元が労働者の解雇などを行っていない場合」は中小企業が9/10、中小企業以外が3/4。「出向元が労働者の解雇などを行っている場合」は中小企業が4/5、中小企業以外が2/3となり、上限金額は日額12,000円(出向元・出向先の合計)だ。

 一方、「出向初期経費」の助成額は出向元・出向先それぞれに対し、従業員1人あたりに対して定額で10万円となる。ただし、出向元事業主が、雇用過剰業種の企業や生産性指標要件が一定程度悪化した企業である場合や、出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合は、各企業に対し従業員1人あたり一律5万円が加算される。

 本制度は2021年1月1日以降の出向が助成対象だが、出向開始日がそれ以前だった場合でも、1月1日以降の出向運営経費については助成対象となる。受給の流れは、出向元・出向先企業間で出向契約を行ったのち、出向開始日の前日(可能であれば2週間前)までに、都道府県労働局またはハローワークに「出向計画届」を提出。その後出向を開始し、任意で設定した期間(月単位)ごとに「支給申請書」を作成した後、再度都道府県労働局またはハローワークへの提出することが必要だ。

 また、厚労省では全国および各都道府県で、労使団体と(公財)産業雇用安定センターおよび関係省庁等を構成員とする「在籍型出向等支援協議会」を設置し、定期開催することを決定。在籍型出向の情報や好事例の共有、在籍型出向の送出企業(出向元企業)や受入企業(出向先企業)の開拓等を関係機関が連携して推進することを目的としており、第1回の全国在籍型出向等支援協議会は2月17日(水)に開催予定だという。この他、在籍型出向支援策をまとめた専用ページもホームページ上に開設予定で、具体的な出向事例や必要な準備事項などが分かる「在籍型出向“基本がわかる”ハンドブック」や、各地域で独自に実施している出向支援のサイト案内などを順次掲載していく。

 新型コロナの影響により、一時的に雇用過多となる企業や産業がある一方で、人手不足となっている産業や企業もある。雇用過多の企業では、本制度の活用を検討してみてはいかがだろうか。

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HRプロ編集部

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