EY連載:大変革時代における組織・人事マネジメントの新潮流(第26回)

 集約化・標準化による業務品質の向上やコスト削減を目的として人事シェアードサービスを設立・運用している企業は少なくないでしょう。しかし想定通りに効果を創出している成功事例は多くはなく、シェアードサービスを立て直したいというご相談を多く受けているのが実情です。なぜこれまでのシェアードサービスは成功しなかったのか?その要因を探るとともに、シェアードサービス高度化に向け取り組むべきテーマを解説します。​

ビジョン・ミッションと組織のアンマッチ

 各部門や事業所などに散在する人事業務、グループ会社個別に実施している人事業務を集約化した「人事シェアードサービスセンター(以下、SSC)」を設立した企業は少なくないでしょう。多くのケースではSSC設立時に「業務品質の向上」や「業務効率の向上・コスト削減」をビジョン・ミッションとして掲げています。このビジョン・ミッションについてまったく異論はありませんが、実際のSSC内組織と配置する人材に課題があるケースが多く存在します。

 業務品質・効率を向上させるということは、すなわち「業務改革」を実行することです。そのため、下の「図表1」で示すように、現行業務分析から実際の新プロセス導入、およびその後のモニタリングまでをミッションとした組織・人材を備えることが必要です。しかし、現実としてはSSC内に業務改革をミッションとする専門組織を配置しているケースは少なく、また、業務改革の専門組織があったとしても十分な経験・ノウハウを有した人材を配置できていないケースが多く見受けられます。つまり、業務担当者に改革・改善を任せっきりにしてしまっており、慣れ親しんだ業務を変えることへの抵抗のために改善すらもなかなか進まない、というケースが多々発生しています。

 また、このような改革人材がSSCではなく本社人事やIT部門などの他部署に存在していることもありますが、それらの部署と十分に連携し、そのケイパビリティがSSCに活かされることは稀でしょう。多くのSSCは、「ビジョン・ミッション達成に向けて戦うだけの武器を持てていない」というのが現状です。

つまみ食い的に移管したSSC業務

 もうひとつの業務改革推進の阻害要因として、「SSCで担う業務スコープ」の課題があげられます。SSC設立時には、「より多くの業務をSSCへ移管し効果を最大化する」という前提のもとに検討を始めたことと思います。しかし、各業務担当者と検討を重ねていくと、「この業務は判断業務なのでSSCへの移管は難しい」や、「この業務は専門性が必要だから本社に残すべき」といった理由から、つまみ食いしたような、細切れの、限定的な“作業”だけがSSCに移管された、という事例も多数存在しています。

 一連の業務プロセスが本社人事/部門・事業所人事とSSC間で分断されることにより、業務プロセスの責任の所在が曖昧になるだけでなく、SSCが主体的に改革できるスコープは限定的になってしまいます。つまり改革対象となる業務がSSCには存在せず、SSCができることは担当する“作業”に対する改善レベルに留まってしまいます。これではビジョン・ミッションで掲げた業務品質・業務効率を大きく向上させることは難しいでしょう。