「海の熱帯雨林」といわれるサンゴ礁は深刻な危機に直面し、かつては冬を越えて生きることのなかった魚やカニが、その分布を北上させつつある。魚の「旬」は変わり、和食の「だし文化」を支えるコンブは徐々に姿を消す恐れが強い。そして、私たちになじみ深い寿司ネタも一変する。
海水温の上昇と海洋の酸性化は「水面下の世界」にどんな影響を与えているのだろうか。『温暖化で日本の海に何が起こるのか 水面下で変わりゆく海の生態系』を上梓した山本智之氏に話を聞いた。(聞き手:岡崎加奈、シード・プランニング研究員)
──温暖化によって海はどのように変わってきているのでしょうか。
山本智之氏(以下、山本):海の環境問題というと、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは海洋プラスチックごみの問題だと思います。でも、海が抱える問題はそれだけではありません。
日本の年平均気温は100年あたり1.24℃のペースで上昇しています。陸上だけではなく海の中でも温暖化は進んでいて、日本近海の平均の海面水温は100年あたり1.14℃上昇しています。日本近海の海水温は、世界の平均海面水温の上昇ペース(100年あたり0.55℃)を上回るスピードで上がっているんです。
海水温の上昇に伴って、もともと暖かい海の魚であるサワラが日本海で大量に漁獲されるようになったり、フグの分布海域が北上したりといった「海の異変」が国内各地で報告されています。
海に囲まれた日本列島で、私たちは魚や貝、海藻といった豊かな海の恵みを受けて暮らしてきました。しかし、このまま海の温暖化が進むと、食卓になじみ深いサケは国内の漁獲量が大幅に減る恐れがあります。和食の「だし文化」を支えてきたコンブ、寿司ダネとして人気が高いクロマグロやホタテガイも、海水温が上昇すると食べられなくなる可能性がある。「秋の味覚」としておなじみのサンマは、旬が冬にずれ込み、サイズが小さくなると予測されています。
地球温暖化が進むことによって海水の温度が上昇し、海の生態系が大きく変わります。その結果、私たちの食卓にも大きな影響が出てくること、慣れ親しんできた日本の食文化そのものが変化せざるを得なくなることを知っていただければと思います。
──「海の異変」の中ではとくにサンゴが深刻な危機に直面していると述べられています。