組織風土変革における「6ステップ」

 下表にて、組織風土変革を進めるうえでのステップを示します。言わずもがなではありますが、組織風土を変革していく際には、「経営層のコミットメントと旗振り」が何よりも重要です。したがって、しかるべき検討チームを準備することが第一歩となることを付言しておきます(図表4)。


【ステップ1】
 まずは、現状の組織風土を正しく知ることから始めます。といっても、組織風土は目に見えないものなので、ワークショップやサーベイ・アセスメント、さまざまな行動データの分析を通じて、目指す組織風土に対して自社の組織風土にはどういった課題があり、またどういった良さがあるのかを把握し、経営層で共有します。

【ステップ2】
 しかる後に、目指すべき価値観や、その価値観を体現する行動を具体的に明文化します。スローガンやキャッチフレーズで終わるのではなく、目指すべき組織風土においてはどういう行動が求められるのかを、できるだけ丁寧に書き下ろすことが肝要です。なお、このステップは現状把握と並行して進めても構いません。

【ステップ3】
 そして、上記のような「行動変容を実現するにはどのような打ち手が有効か」を考え、施策としてリストアップします。あわせて、求められる行動が正しくとられていることを確認するためのKPI(モニタリング項目)を設計します。

 これは「組織風土変革」の実現・浸透度合いを把握し、軌道修正するために活用しますが、定性的なものにとどまらず、行動データをログとして取得し分析する方法も同時に設計しておきます。

【ステップ4】
 次に、立案した施策群をやみくもに実行するのではなく、「チェンジネットワーク」を組成します。これは、個々の部署やチームにおいて、「この人が変われば全体が変わる」という影響力が強いステークホルダーを識別し、変革推進側に引き入れる、ということを意味します。

【ステップ5】
 そしてチェンジネットワークの役割を意識しながら、実行計画を策定します。計画の実行に際しては、各施策の進捗度合いはもちろんのこと、目指すべき行動が実際に行われているかを、KPIとして定義した「行動データの分析」や、パルスサーベイなどを用いた「従業員意識の定点観測」などによってモニタリングすることが肝要です。

【ステップ6】
そして、分析結果を受けてタイムリーに軌道修正していくことが求められます。

デジタルエンタープライズに向けた進化

 組織風土変革は一朝一夕に成るものではなく、長期間にわたる取り組みです。また、企業規模や歴史により、難易度も異なります。そのため、確実な実行に向けて、小さく始めて速やかに拡大する「start small, scale fast」というアプローチも考慮の余地があります。例えば、DX推進組織を中心にパイロットとして風土変革を進め、一定の効果と定着を確認し、しかる後に全社に徐々に広げていく、というやり方も一案です。

 DX推進にあたり、デジタル、テクノロジーへの理解と投資が重要であることはいうまでもありませんが、自社の組織風土をデジタル時代に即して進化させていくことは、同じくらい重要であるといえます。

 DXの究極の目的とは、まさにデジタルエンタープライズに向けた企業の変革(トランスフォーメーション)であり、組織風土の変革は、間違いなくその重要なピースとなります。大切なのは、DXにおける組織風土の重要性を理解し、何を変え、何を残し、何を新しく始めるべきなのか、を意識して、デジタルエンタープライズに向けた第一歩を踏み出すことといえるでしょう。
 

著者プロフィール

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス パートナー
水野 昭徳

外資系コンサルティングファームを経て、現職。組織・人事コンサルティングで20年以上の経験を持つ。自動車、製薬、小売業、消費財メーカーなど、さまざまなクライアントに対し、グローバルHRトランスフォーメーション、組織設計、テクノロジープラットフォームの構想・導入、人事業務の効率化・高度化・デジタル化、人材育成、チェンジマネジメントなど、幅広いプロジェクトをリードしてきた経験を有する。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社