そのダークホースとは、上汽通用五菱が2020年7月に発売した超低価格EV「宏光MINI」です。注目すべきはその価格で、メーカー希望小売価格はなんと2.88万~3.88万元(約48万~68万円)となっています。

「宏光MINI」は発売時に値段の安さが大きく話題になるや、ユーザーに幅広く受け入れられました。市場投入は7月だったにもかかわらず、2020年通年の販売台数は約11.3万台を記録し、新エネルギー車としては「モデル3」に次ぐ2位につけています。

同車の最大の特徴は言うまでもなく「低価格」です。コストダウンは徹底されており、再安価グレードではエアコンに暖房機能しかなく冷房機能は除外されています。また1回の充電当たり連続航続距離も120~170kmしかありません。他のEV車種と比べると、著しく短い航続距離となっています。
一見すると物足りない性能、装備ですが、自動車としてではなく電動バイクの延長線と捉えると見事なポジショニングであるように筆者には見えます。
というのも、中国では地方を中心に、毎日、電動バイクで通勤する労働者が少なくありません。そうした層からすると、宏光MINIは一般の自動車よりも手が届きやすい価格にあり、かつ屋根もついていてスピードも速く、電動バイクに勝る快適な乗物となり得るわけです。
新エネルギー車市場は、モデル3の好調ぶりから、性能の優れた高級車クラスでなければもはや生き残れないとする見方が年初には広がっていました。しかし、宏光MINIの登場はこうした見方に一石を投じ、市場やユーザーニーズにマッチしたEVの開発、投入の必要性が改めて見直されてきています。
年が明けてから、日本同様に中国でもコロナ患者が再び増え始めました。コロナ終息の見通しが立てづらい中、各社がどのような方針で市場に臨み、どんな車種を投入するのか、その動向に今後も注目していきたいと思います。