ジョブスは禅を愛した

 今回は、ニューヨーク大学で行う私のAI倫理の講義の一部をご紹介しましょう。

 日本の禅の考え方がAIをとらえるうえでとても有効であること、かつそれを取り結ぶのが「スティーブ・ジョブズ」ということで、米国の学生が興味を持つように考えました。

 また日本以上に深刻な新型コロナウイルス感染症禍の中で、マインドフルネスがどうして有効か、アートプロジェクトの実際も原理から展開するのですが、そのイントロ部分を少々。

スティーブ・ジョブズが愛した「禅」

 GAFAの一翼を担う、米国アップルを創設したスティーブ・ジョブズ。56歳で早世しましたが、いまだに神話的な人気を誇るITレジェンドの一人となっています。

 このジョブズが禅や瞑想に傾倒していたことは、比較的広く知られています。

 米国カリフォルニア州サンフランシスコに、シリア系アラブ人ムスリムの留学大学院生男性とスイス系米国人女性大学院生の間に生まれた彼は、生後すぐに養子に出され、ジョブズという姓はこの養父母の家のものです。

 実母とは養母が亡くなった折に対面したそうですが、実父とは生涯会うことはなかったそうです。

 人並外れた好奇心と知的能力を持ちながら、出生と生育に複雑な事情を負ったジョブズは、自分の存在の根っこのようなものに不安定なものを抱え、哲学や思想、瞑想などを実践しながら、電子的なモノづくりや修理と、製造品を売りさばくビジネスに野生的な感覚を身に着けていくのは周知のとおり。

 自分探しの旅でインドまで出かけたものの、理想とかけ離れたインドに失望、赤痢にも罹って命拾いしたジョブズは、サンフランシスコに戻って、日本の曹洞宗の禅を学びます。

 のちにアップルを起業し、巨万の利を得たり、大失敗して会社を追放されたり、という波乱の人生のさなかにも、ジョブズにとって禅や瞑想は大切なものであり続けた。

 そんなジョブズが終生愛読した書物として知られる一つに、オイゲン・へリゲル(1884-1955)の「弓と禅」があります。