多くの企業では「賞与」を当たり前のように支給しています。現在はコロナ禍の影響もあり、支給額を減額する企業も増えていますが、それでもやはり「支給する」という企業が多いようです。社会保険労務士として、これまで多くの企業の「就業規則」や「賃金規定」を見てきましたが、次のような規定を設けていることがほとんどです。「会社は、各期の会社業績を勘案して、原則として年2回、○月と〇月に賞与を支給する。ただし、会社業績の著しい低下、その他やむを得ない事由がある場合には、支給時期を延期、または支給しないことがある」。この規定のとおり、「賞与は業績に連動する」と考えるのが一般的ですが、実は「労働基準法」には賞与に関する定めはなく、法令上、支給が強制されているものではありません。賞与支給の有無や、その計算方法、支給時期などは、原則として各企業の任意なのです。

「賞与支給あり」だけではだめな理由

 戦後約20年続いた高度経済成長により、業績が右肩上がりだった日本の企業において、「賞与」は当たり前のように支給されてきました。しかも、勤続年数に応じて昇給する「基本給の〇ヵ月分」という仕組みで支給額を決定していたことから、実態としては業績に連動することはなく、「固定的な賃金」として支払ってきた企業が多かったではないでしょうか。そして、今でもその風習が続いている企業もあるでしょう。この「固定的賃金」という賞与支給の仕組みは、社員の定着率を向上させる要因のひとつになっていたと思います。

 それは、「採用」においても同じです。これまでは、求人情報に「賞与支給あり」の記載があるか否かが、ひとつの応募基準となっていたでしょう。しかし、時代とともに「成果主義」の考え方が強くなり、賞与支給の仕組みは基本給と連動するものではなくなってきました。近頃では、成績が良かった社員とあまり良くなかった社員で支給額に差を付けるなど、賞与に「評価」を反映するようになったのです。

 すると、社員からは「なぜ自分の賞与はこの金額なのか?」という疑問が出てきます。つまり募集基準としては、「賞与支給あり」という条件だけではなく、「賞与支給に反映される評価の内容はどのようなものなのか」が重要になってくるのです。そのような背景から、会社側から一方的に評価を伝えるのではなく、社員が納得できるように「なぜその結果になったのか」をきちんと説明することが大切です。そして、評価結果に応じて「賞与額がどのようになるか」まで説明することが、採用や社員定着につながるでしょう。

 しかし、「固定的賃金の賞与支給制度」から「成果に応じた賞与支給制度」に変わると、社員は不安を感じる場合があります。これまで当たり前のように支給されてきた賞与が、成績によって金額が左右されたり、個人の成績が良くても企業の業績が悪ければ支給されないこともあったりするというのは、社員側としては受け入れがたいものです。

 では賞与の代わりに、毎月の成績に応じて歩合手当を支給するのはどうでしょうか? この場合、毎月の賃金が増える可能性はありますが、同時に社会保険料や法定福利費も増加することがあります。そして何より、賞与払いでローンを組むなど、「賞与があることを基本」としてライフステージを考えてきた人の多くは、現実的に困ることになります。このような理由もあり、企業が賞与を廃止、もしくは業績に応じて支給額をゼロにすることは、相当ハードルが高いのではないでしょうか。

これからの「賞与制度」に必要なこととは?

 前述のとおり、賞与支給の有無や計算方法、支給時期などは、原則として各企業の任意で決めることができます。企業が「社員に年2回の賞与を支給する」ことを前提とするならば、賞与分としてそれぞれ基本給の1ヵ月分と、月額賃金の12ヵ月分を合計した14ヵ月分を、「社員ひとりの年間人件費」と考えます。そして、企業にそれ以上の利益があった場合は、それを「賞与原資」として社員に分配することとします。これが「総額人件費管理」です。賞与の分配方法は、社員の評価結果に応じて公正に配る仕組みを作り、あらかじめ公開するべきでしょう。できれば、利益に応じた賞与原資も公表すると、より社員からの納得が得られると思います。

 これからは、企業に「賞与支給の制度がある」というだけではなく、「その評価や仕組みが公正で、社内に周知されている」という点が求められるでしょう。それによって社員のモチベーションが向上し、定着にもつながるのではないでしょうか。

真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/

著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。