「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、企業を取り巻く市場環境のデジタル化に対応するため、企業の経済活動やビジネスモデル、組織・文化・制度といった企業自体を変革していく一連の取り組みを指す。企業の人事にとっても、組織や企業文化・風土に関わる「DX」は、重要な人事戦略の一つと言える。本記事では、「DX」の定義や課題、推進に向けたステップ、人材採用のポイント、企業事例などを紹介する。

「DX」とは? 注目されている背景やIT化との違いを解説

●DXの定義
「DX」とは、スウェーデンの大学教授、エリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した「デジタル技術が人々の生活を、あらゆる面でより良い方向に変化させる」という考え方を起源とする概念だ。

 もともと社会・人類全体を俯瞰した幅広いテーマとして生まれた概念だが、昨今、メディアやビジネスシーンで一般的に用いられる「DX」は、「AIやIoT、ビッグデータなどのデジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織体制を抜本的に改革することで競争優位性の確立や外部環境への適応を目指す」という意味で使われるなど、企業を主体として語られるケースがほとんどだ。このような企業の取り組み全般に対して使われる「DX」は、エリック・ストルターマン氏が提唱した「広義のDX」に対し、「狭義のDX」、あるいは「ビジネス文脈でのDX」と位置付けられている。本記事でも「狭義のDX」を中心に説明していく。

●「DX」が注目されている背景
 経済産業省は、「DX」が進まない現状のままではIT人材の不足とレガシーシステムが障壁となり、「2025年から2030年までの間に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と発表している。一方で「DX」を推進することができれば「2030年の実質GDPにおいて130兆円の押上げを期待できる」ともしており、日本の産業界にとって「DX」は無視することのできないキーワードになりつつある。

 また、スマートフォンやEC、SNSの普及による消費者行動の変化、デジタル化による既存ビジネスの破壊(ディスプラプション)、さらにはコロナ禍で加速したリモートワークの普及など、近年のデジタル技術の進展が生み出した社会変容の中にあっては、新たなビジネスを生み出すにしても、既存の事業を守るにしても「DX」の推進が必要不可欠であると認識されつつある。

●「IT化」と「DX」の違い
「IT化」と「DX」は、共にIT技術・デジタル技術の導入・活用が求められるが、最終的な目的が大きく異なる。「IT化」は、業務効率化やコスト削減を目的としてIT技術・デジタル技術を導入する。それに対して「DX」はIT技術・デジタル技術を手段として活用し、ビジネスモデルや組織、さらには企業文化・風土といった、より広い範囲の変革を促すことで企業の競争優位の確立を目指す取り組みである。

「DX」の推進がもたらすメリットは、生産性向上やBCPの充実

●生産性の向上
 オフィスや店舗、工場などにAIやIoT、ビッグデータ、さらには5Gなど、新たなデジタル技術・通信技術を活用したアプリケーション、業務システムなどを導入することで、業務の生産性が向上し、ビジネスの利益率向上も見込める。たとえばホワイトカラーの事務作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)、工場の製造ラインで不良品を検知して歩留まりを改善するAI×IoTのシステム、顧客の購買データを蓄積してレコメンドを行うCRMツールなどはダイレクトに生産性や利益率の向上に貢献する。


●BCPの充実
 BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)とは、企業が災害やテロ、システム障害といった危機的状況に陥った際のビジネスを継続するための対策全般を意味するが、「DX」を推進することでBCPを充実させることも可能だ。たとえばネット販売を強化していた家具販売のニトリや日本マクドナルドは新型コロナの流行時においても過去最高益を更新。海外でもアメリカのウォルマートやウォルト・ディズニーは店舗やテーマパークでの集客の落ち込みをネット販売や動画配信事業で補うなど、「DX」を推進していたことで新型コロナの感染拡大という非常事態下でも、事業を継続し続けられる企業力を証明した。