主観的には「恋愛」、実態は「セクハラ」

 もうひとつ、セクハラ問題をややこしくしているのは、性的な関係を強要している側が、「強要しているという意識を持っていない」場合が多いことである。


 主観的にはこのようになる。

例1
「職場の女性を好きになってしまった。飲み会帰りのタクシーの中で、アルコールが入っていたこともあり、気持ちが抑えられず強引にキスをした。彼女も抵抗しなかったので、まんざらでもないようだ」

 一方、女性の立場からするとこうなる。

「会社の飲み会の帰りに、上司が『タクシーで送る』と言ってきて、断ったのに強引に車に押し込まれた。しかも、『ぼくとつきあったら悪いようにはしないよ』と言って無理やりキスされてしまった。嫌だったが、突然すぎて強く抵抗できなかった。翌日から、その上司の顔を見るだけで気持ちが悪く、吐き気がしてくる 」

 また、このような例もある。

例2
「職場の女性と交際したいと思っている。なかなか忙しいようで、デートに誘っても『その日はちょっと用があって無理です』と言われてしまう。でも、いつもニコニコしているし、自分に好意を持っているようだ」

 誘われた側からすると、こうなる。

「職場の上司がデートに誘ってくる。自分としては、ありえない相手だ。まさかそんなことは言えないので、『用事がある』と言って断っているが、しつこくて困っている。上司だから愛想よくしているだけなのに、勘違いされて迷惑だ。しかしはっきり断ると、次の契約更新に響きそうで言えない」


 どちらも、女性の側はまったくその気がなくても、「職場の上司と部下」という関係から、強く「NO」と言えないケースである。しかし、上司の側からすると、「性的関係の強要」ではなく「恋愛」だ、という意識なのである。

 順番を逆にして、女性の意見を先に聞けば「それはセクハラだ」と誰もが思うだろうが、男性の意見を先に聞くと、「恋愛なのだから、個人の問題だ。会社の感知するところではない」となってしまわないだろうか。

 この2つの例はどちらもセクハラとなるので、ここを見誤らないようにしたい。

李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org

 

 

著者プロフィール

HRプロ編集部

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