職種や役職の新設は、売上や利益をもとに判断すべき

 例えば、「部長・課長・係長」という役職がある部署で、課長が転職してしまった場合。係長が課長に昇格した後、係長のポジションは業務の状況が特にひっ迫していなかったら空席にしておいてもいいはずなのに、「とにかく係長を配置しないといけない」と反射的に思ってしまうのです。新型コロナウイルスの影響でテレワークになった際、「承認作業以外、何もやることがない」というポジションの人が出てきてしまうのは、属人的な問題というより、そもそも役職の数が現実の実務作業より多すぎることに問題の根本があるような気がしてなりません。

 景気が良い時代であればそれでもいいかもしれませんが、一旦悪くなれば、このような立場の人からリストラされてしまう恐れがあります。また、目新しい職種名の人達などは、資金に余裕があった時はちやほやされていたのが、資金不足に陥った途端に「この人達の仕事、絶対に必要ではないでしょう」と手のひらを返されて同様にリストラされてしまう恐れもあります。総務人事部の大切な仕事の一つに、私は「組織を肥大化させない」ということが挙げられると思います。「本当に、うちの会社にその職種の人が必要ですか」、「本当に、その役職って業務に必要ですか」ということを総務人事部が経営陣や現場と一緒に精査をすることが、会社をつぶさない組織作りには大切だと思います。

 そもそも、役職や職種を無尽蔵に増やすと総務人事部の作業、つまり管理コストがものすごくかかります。「社員名簿の管理」、「組織図の管理」、「名刺の管理」、「評価制度の管理」……。人事異動があればこれら全てを変更しなければいけません。ひたすら社員情報の管理をしているだけの総務人事担当者がいる。そんなことが起こらないように、役職、職種の数を必要最低限に絞るという発想を常に持っていたほうがいいでしょう。

 経営陣や現場から「このような職種の人がいたほうが、社内コミュニケーションが円滑になる」、「現場には役職をつけてくれたほうが、取引先の担当者と肩書のバランスが取れる」という理由を挙げられると、何の躊躇もなく、職種や役職を新設してしまいがちです。「それによって、実際に売上や利益がどれくらい変わるのか」、反対に、「それによって、どれくらいの作業時間、管理コストが増えるのか」という計数的な視点も常に持ち合わせるバランス感覚が、これからの総務人事部には必要な時代だと思います。

著者プロフィール

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎

数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。また、2020年6月26日に新著『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が発売された。

 

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