不便極まりない日本のマイナンバーカード

 マイナンバーカードの機能がこのようなものなら、データベースにつなげることができるツールには多様なものが考えられる。何が何でもマイナンバーカードでなければならないということはないはずだ。まちがいなく、将来的にはもっといろいろなツールが開発されるだろう。

 それゆえにマイナンバーカードにこだわって、裏側に記載された番号を見えないようにせよとか、マイナンバーを法で認められた場合を除いて、記録したり使用したりしてはいけないというのはいかがなものか。せっかくデジタル技術によって獲得できた利便性を放棄にするに等しい。

 このようなマイナンバーカードの機能を考えると、市町村を発行主体とし、現住所をカード面に記載し、自治体の境界を越えた引っ越しのたびに、書き換えを要するという現在の仕組みは不便極まりない。

 わが国のマイナンバーカードのモデルと言われているエストニアのIDカードは、券面にIDが明記されているとともに、住所は記載されていない。住所を知りたければ、カードリーダーを介して、登録してある住所情報を呼び出せばよいからだ。

 同国では、IDカードの機能をこのように、各自のデータへアクセスする鍵と捉えている。そのため、デジタル化を進めるためにまず必要なこととして、全国的に高速で安定した通信ネットワークと公共Wi-Fiを整備することと、カードリーダーを普及させることに力を注いだという。国民が自己のデータを含め、多様なデータにアクセスする利便性を重視する非常に合理的な考え方と言える。

 もう一つわが国のマイナンバーの問題は、なるべく他人に知られないように、覚えられないような数字の羅列にしたために、自分の番号を覚えている人がほとんどいないことだ。だが、これでは非常時など、最もマイナンバーが役立つ場面でその力を発揮できない。

避難所では、必要とされる医療ケアや医薬品、アレルギー情報などは手作業で収集されている(写真:Ben Weller/アフロ)

 被災し着の身着のままで避難した多数の被災者を助けるために必要とされる医療ケアや医薬品、アレルギー情報などは、現状では避難所などで手作業で収集されている。これらの情報がデータベースに保存され、マイナンバーを受付で告げれば、自動的に必要な手配がなされるようになっていれば、被災者の実質的なケアも精神的な安心も早く的確に得られるのではないか。現状では、仮にそれらの情報がどこかのデータベースに格納されていても、利用することはできない。

 マイナンバーの仕組みを理解して、現代社会において活用し、もっと便利で豊かな社会にすべきであろう。マイナンバーを活用することによって、利便性が増すだけではなく、長期的には効率化が進み、行政コストの削減はもとより、一般国民の負担も大いに減るのだ。先進諸国は、そうした効果を狙ってデジタル化を進めている。それを疑う人は、是非先進諸国の実態を見てほしい。