個人情報の活用を過度に制限してはいまいか
もちろん、給付のために必要とはいえ、人に知られたくない病歴や過去などを持っている人もいる。そうしたプライバシーは、当然、権利として保護されなくてはならない。国家の保有する情報がむやみに公開され、民間企業に自由に利用させることは避けるべきである。
先進国では、その点は、完璧とは言えないまでも、工夫がなされている。データを収集し、サービスや政策立案には使うが、そのデータへのアクセスについては、当該国民に自己情報の管理権を認めたり、アクセス制限をするなど、貴重な社会の資源としてのデータを十分に活用しつつ、プライバシー侵害というリスクを最小化しようとしている。
わが国は福祉国家となりながらも、データ活用のメリットを十分に自覚せず、実質的なプライバシーの保護というよりも、それを含む個人を識別できる情報を広く秘匿する制度を設け、個人情報の活用を制限している。これでは、デジタル化のメリットを十分に享受できない。たとえて言えば、副作用を過度に恐れて、薬効のある薬を控えるのに似ている。何のために、何を得るのか確認し、理念、哲学をしっかり持ってシステムを設計すべきである。
ところで、このような現代福祉国家におけるデジタル化の鍵は、何と言っても国民一人ひとりに付番された唯一無二のID、すなわちマイナンバーである。このIDによって、さまざまなデータを結合し、個人の資格や属性を把握することによって、きめ細かいサービスや対応が可能になる。
たとえば、それぞれ異なる家族の状況や収入、健康状態に応じて給付の受給資格やその金額を決定することが可能になるとともに、同姓同名などによる誤認や、また詐欺などの悪用もかなり防ぐことができるであろう。
なお、この番号は、仕組みとしては、本人にもわからない「見えない番号」でもよいはずだ。要するに、複数のデータベースに格納されているその人物のデータを、必要な場合に、確実に結合できればよいのである。ただ、「見えない番号」の場合、その番号が悪用される可能性はないが、誤った情報が紐付けられたり、本人の情報であることが確認できなくなったりする可能性がないとは言えない。