デジタル化のメリットを理解していない国民

 菅内閣は、健康保険証や運転免許証の機能をマイナンバーカードに載せることによって、マイナンバーカードの普及を図り、デジタル化を進めるという。他方、国民やメディアの中には、マイナンバーが人に知られ、悪用されるのではないか、という声も相変わらず根強い。その不安から消極的な意見も少なくない。

 私は、ITやシステムの専門家ではないが、行政事務のデジタル化の推進に長く関わってきた。そしてその過程で、IT先進国であるエストニアや北欧諸国を何度も視察してきた。そこで得た知見からすると、従来のやり方の延長では、わが国のデジタル化はこれまでと同様に実用に耐えないという問題を引き起こす可能性があると思う。

 そのように考えるのは、第1に、デジタル化で何を目指そうとするのか、国民にとってどのようなメリットがあるのか、その基本的な哲学がないことである。個人情報保護にこだわり、個人情報の漏洩、悪用のトラウマにとらわれているが、他方で推進する政府の担当者にもデジタル化のメリットが理解されていないのか、国民は何のために個人情報漏洩のリスクを侵してまで、デジタル化を進めるのか理解できないでいる。

 第2に、国民一人ひとりに振られたID(国民番号)、すなわちマイナンバーについてその仕組みがよく理解されていない。とくに、IDであるマイナンバーとマイナンバーカードの違いやそれぞれの機能が理解されていないことである。

 哲学がないと言ったが、北欧のみならずアジアでも、IT先進国ではデジタル化はビジネスの世界だけでなく、行政サービスの世界でも大きなメリットがあることがしっかりと認識され、それゆえに積極的に推進されている。では、そのメリットは何か。