法整備で健全な仮想通貨の市場を目指す
「仮想通貨は怖い」というイメージを持っている方は多いと思います。
「怖い」というイメージには2種類あると思われます。ひとつは、値動きがリアル通貨の為替レートより大きく、短期間で大きな損失を抱えてしまうのでないかというイメージ。もうひとつが、仮想通貨そのものに対する信頼です。
2014年に、ビットコインの取引所を運営していたマウントゴックスという企業で、顧客が保有するビットコインが流出する事件が発生しました。流出額は当時の交換レートで400億円以上。「国の裏付けがない仮想通貨は危ない」という論調も多く見られました。
この事件を受けて、仮想通貨の取引に厳しい制限を設ける国もありましたが、日本は諸外国とは逆の発想で「きちんと法整備をして、健全な仮想通貨マーケットにする」という方向に舵を切りました。2017年4月に法改正が行われ、仮想通貨に関する具体的な規制が盛り込まれました。2018年1月には仮想通貨取引所のコインチェックで仮想通貨「NEM(ネム)」の流出事件が発生しましたが、これを受けて他の取引所への立入検査、行政処分が行われ、その後規制を強化する改正法が2020年5月に施行されました。
【2017年4月】
資金決済に関する法律(資金決済法)
① 登録制の導入
② 利用者への適切な情報提供
③ 利用者財産の分別管理
④ 取引時確認の実施
【2020年5月】
資金決済法の改正と金商法の適用
●資金決済に関する法律
① 「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称の変更
② 暗号資産カストディ業務に対する規制の追加
③ 暗号資産交換業の業務に関する規制の強化等
●金融商品取引法
④ 電子記録移転権利の創設及びこれに対する規制の適用、
⑤ 暗号資産デリバティブ取引に対する規制の創設(レバレッジ2倍以下)
⑥ 暗号資産又は暗号資産デリバティブの取引に関する不公正な行為に関する規制の創設
※上記の法改正により、仮想通貨の正式名称は「暗号資産」となりましたが、本記事では一般に広く使われている「仮想通貨」の呼称を使用しています
金融庁に登録している仮想通貨交換業者には、「利用者財産の分別管理」が義務づけられています。万一、取引所が破たんするような事態になっても、顧客の財産は守られる仕組みです。2020年5月の改正資金決済法で、分別管理に関する規制が強化されました。
コインチェック事件では、財務省関東財務局が同社を「経営管理態勢及び内部管理態勢等に重大な問題が認められた」と評価し、業務改善命令を出しました(注1)。同社は流出した約580億円分の仮想通貨について、相場の下落によって補償額は約460億円に減額となったものの、2018年4月にすべての返金を終えたことを報告しました(注2)。
また、いわゆるマネーロンダリングが行われる可能性についても、口座開設時の本人確認を厳格にするなど、対策が強化されました。このように、誰もが安心して仮想通貨を使用できるように法整備が進められています。
次回は、仮想通貨(暗号資産)の種類や用途について、詳しく掘り下げていきたいと思います。
注1 コインチェック株式会社に対する行政処分について(関東財務局)
注2 コインチェック、460億円補償完了 危うさ抱える高収益(日本経済新聞、2018年4月6日)