厚生労働省が公表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、職場における「いじめ・嫌がらせ」は増加傾向にあるようだ。このような状況下で、2020年6月より、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」)の防止が企業に義務付けられることになった。企業として具体的な措置の実施に取り組んでいく中、「職場では指導がパワハラにならないか」という不安の声もあるようだ。「パワハラにならない叱り方」を確認しておきたい。
職場での「いじめ・嫌がらせ」の増加を受け「パワハラ防止法」施行
2020年7月、厚生労働省が「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表した。「個別労働紛争解決制度」とは、個々の労働者と事業主との間で起こる労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決をはかるための制度である。「総合労働相談」と、労働局長による「助言・指導」、そして、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があり、厚生労働省は、毎年度、これらの制度の利用状況を取りまとめ、公表している。
それによると、「あっせん」の申請件数は前年度並みであるものの、「総合労働相談」件数、「助言・指導」の申出件数は前年度より増加している。そして、「いじめ・嫌がらせ」は、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数のすべてにおいて、引き続きトップだった。
(出典)厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
職場における「いじめ・嫌がらせ」問題の増加を受け、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、「労働施策総合推進法」)」の改正が2020年6月に施行され、職場におけるパワハラ防止対策が事業主に義務付けられた。なお、事業主が講ずべきパワハラの措置義務について、中小企業では2022年3月31日まで「努力義務」となっている。
職場における「パワハラ」とは、職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)~(3)までの要素をすべて満たすものをいう。
それでは、実際に上司が部下を指導する場合、上記(1)~(3)についてはどうだろうか。
(1)については、優越的な関係といえるだろうから該当するといえる。
(2)では、「業務上必要」である具体的な理由があげられる場合は問題となることは少ないと思われるが、「相当な範囲」なのかどうか、判断が難しいのではないだろうか。例えば、強く叱責する場面もあるかと思う。問題行動が再三注意しても改善されない場合や重大な問題行動に対して強く叱責するのであれば、パワハラに該当しないといえる。しかし、初めての些細なミスに対して、同様に叱責することは問題となる可能性がある。
(3)の「労働者の就業環境が害される」というのは、当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることとされている。「セクハラ」の場合は「主観的な感じ方」で判断される場合が多いが、パワハラにおいての判断は「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業するうえで「看過できない程度の支障が生じた」と感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされる。
各企業で具体的な措置の実施が進んでいるが、職場では自身の注意指導がパワハラにあたらないか不安になっているという声も多くあるようだ。部下を指導する立場にある人であれば「パワハラにならない叱り方」を知っておく必要があるだろう。